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あなたのために



突然聞こえた悲鳴の様な声に意識が覚醒しベッドから起き上がる。急いでベッドから下りて扉を開ければ、どこからともなく変な匂いがした。
「、何だよこの匂い…!まさかウコバクか!?」
匂いの発生源なんて、あの食堂以外に考えられねえ。多分あいつは今頃寝てるだろうし…明日の昼飯でも作ってんのか?
一応この謎の匂いを頼りに走って向かえば、案の定食堂の前まで辿り着く。一息ついて、勢い良く扉を開けた。
「おらあ!!一体何してんだ…よ、って…鈴羽!?」
「ひ…りんく…!?ご、ごめんなさい!!」
「いやごめんなさいって…これ、どうしたんだよ?」
「これはその…少し、失敗しちゃって、」
調理台を見ると確かに何か作っていた様な形跡はある、でもこれ…一体何を作ろうとしたんだ!?真っ黒じゃねえか!絶対上手くいくと思ったんだけどなあ、と零す鈴羽にため息を吐いて苦笑いをしながらへなへなと座り込んでいる鈴羽に手を差し伸べた。
「鈴羽、料理ヘタなのか?」
「へっヘタじゃなくて、苦手なだけだよ…!!」
ありがとうと言いながら立ち上がる鈴羽にそう聞けば、少しムッとしながら答えてくる。苦手って…自覚してんだかしてないんだか微妙だよな…。とりあえず何を作る気でいたのか問えば、ケーキを作りたかったらしい。…やっぱ前言撤回だ、全然自覚してねえ!!
「…まあ分かったけどよ、んでも何でこんな時間に作ってたんだ?」
「えっ!?それ、聞くの…!?」
「は!?きっ聞いちゃいけねえのかよ…!」
「だって…燐君にあげようとしたから、」
「!!そ、れは…悪い」
なんとなく気まずい空気に視線を彷徨わせる。こういうのは苦手なんだよな…、鈴羽も、少し俯いて気まずそうにしてる。こういう時はなんだ?何をすれば…俺が出来るのは、あれしかねえ!!
「よし、作るぞ鈴羽!!」
「、?作って何を?」
「そんなの決まってるだろ、ケーキだ!」
「でっでもついさっき失敗して、」
「失敗がなんだよ、そんな事で諦めてたら今まで頑張ってた意味ねえじゃねえか!今回は俺も手伝ってやるから…な?」
未だ繋がれている手を強く握りながら言えば小さな声で「じゃあ…お願いします…」と鈴羽は言う。料理なら得意分野だし、味付けとかは俺がやればなんとかなるだろ…準備とかならさすがに大丈夫か?
早速準備を始めようとまた調理台に視線を映せば、時間を測るための時計が目に入る。って今、夜中の2時じゃねえか!!鈴羽も、無意識に眠たくなってきたのかうつらうつら船を漕いでる。
「…とりあえず、作るのは明日にして今は寝るか。明日丁度休みだしな」
「ん…うん、分かった…」
「そしたら俺は少しこれだけ片してから寝るって…おい鈴羽!何でここで寝るんだよ!?」
「ぅ…?燐君、何…」
「ここじゃなくて部屋で寝ろって!こんな所で寝たら風邪引いちまうだろ…」
「わか、ってる…よ…」
…寝やがった。こいつ、立ったまま寝てやがる…!!仕方なしに手を離して床に座らせれば、起きる気配もなく。顔を覗き込んでも、少し触れてみても反応なし。まあもう2時だしな…さすがに疲れたよな、けどな、ここでは寝ないでくれ!



片付けもそこそこに終了して、鈴羽を見る。気持ち良さそうに寝てるせいで何も言えねえじゃねえかよ…!!溜め息を吐きながら自分の髪をくしゃっと掴み、少しだけ深呼吸する。まああれだよな、鈴羽が寝ちまっただけで俺は悪くねえよな…そうだろ?
「…鈴羽、」
「…」
充分に寝ている事を確認して、鈴羽に触れる。頬に手を添えてスッと撫でれば、くすぐったいのか少しだけ身じろぎをして。
「……ん……」
「好きだぜ、鈴羽」
言って1つ、口付けをした-

あなたのために




続きます



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