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繋いだ手はそのままに




「こねえ…」
かれこれ何十分と待っただろうか。いやむしろそれ以上かもしれない。鈴羽に稽古をつけてほしいと頼まれたから、いつもより格段に早起きして来たってのに。何か問題でもあったのかと心配になる。これが雪男だったらぜってー許してやんねーけど、相手はあの鈴羽だ、怒る訳がない。
「(、にしても…ちょっと遅すぎじゃねえか…?)」
まさか待ち合わせ場所を間違えたのかと周りをよく見渡したが、生憎俺以外には誰1人といない。迎えに行くという選択肢も考えた、がこれでもし入れ違いでもしたらと思うと中々動くに動けなかった。
「あー…くそー…鈴羽ー…」
一体何処にいるんだよ…と愚痴を零すも、何も返答は返って来ない。盛大に深いため息を吐いて少し俯いた。

普段頼み事をしない鈴羽が頼み事をしてきた。しかもこの俺に。他の誰でもなく俺を選んでくれた事が嬉しくて、あいつ…雪男も鈴羽の事が好きだったからまた更に嬉しくて。しかも頬なんて赤くしてきたんだ、少しは期待して良いんだよな?


「……っ!?りっ燐君…!?」
「、あ゙…?、!?鈴羽!!」
「もしかして、ずっと待ってた…!?」
息を切らしながら来た鈴羽に、俺も思わず立ち上がる。どこか泣きそうな顔をしている気がする…もしかして俺のせいなのか!?
「ごめんね…!私、雪男君が燐君はいつも遅れるからって聞いて…!」
「あ、ああ…!いや、別に良いぜ!俺も今さっき来たとこだし!(あんのホクロメガネ…!!)」
「ほんと、に…?」
「ああ、だからそんなに気にすんなって」
「…ありがとう…優しいね、燐君」
「…っ!!」
そう言ってほっとした様に笑う鈴羽に、顔に熱が集まる。お、俺今物凄くみっともねえ…!!…それにしても雪男の奴…!俺が鈴羽を好きだからって知ってわざと遅らせやがって…後で一発締める…!
俺だったらそんな卑怯な真似しないで正々堂々こいつに告白してやる!!
「そしたら、遅くなっちゃったけど稽古…つけてくれる?」
「ああ!まかせろ!!」



「はっ…あ…はあ…」
「…そろそろ終わりにすっか」
「、うん。そうだね!結構動いたから、疲れちゃったかな…」
「ぁー…お、俺荷物取ってくるな!」
言って全速力でその場から離れる。よく考えたら今2人きりじゃねえか…!!只でさえ速い鼓動がまた更に速くなった気がして、胸元を強く握った。

「(今日、言わないとな…)」
今日中に言わなければ、もう手遅れになる。何でかは分からないが、確かにそう感じるんだ…。もしかして俺、焦っているのか?いや、俺だけじゃない。雪男があんな事したんだ、きっとあいつも焦ってる。
「(…ま、俺が勝つけどな!)」
雪男はまだ言ってない、ならもう今しかない。今日中に言って、雪男にぎゃふんと言わせてやる!!



「今日はありがとう!燐君のおかげで私、少し強くなれたと思う!!」
「これくらいどうって事ねーって!俺も良い運動になったしな、」
「うん!燐君やっぱり強いね、全然追いつける気がしないよ…」 
-私も雪男君みたいに強くなれたらなあ-
ふと呟かれたあいつの名前に、心臓が大きく跳ね上がる。今…何て言った?雪男?俺の名前じゃなくて、あいつの名前を、呼ぶのか?
少し前を歩く鈴羽の腕を離さない様に強く掴む。こんなほっせー腕で、戦ってるのか…。驚いて振り向いた鈴羽は何が起こったのか分かってないのか呆然と立ってこっちを見つめていた。
「、りんく「鈴羽!!」んぇ…?」
「お、お前…あいつが、好き、なのか…!?」
「あいつ…?あいつって?」
「えと、だから雪男…」
「雪男君?どうして?」
「、だって今"雪男みたいに強くなれたら"って…!」
そう言って視線を逸らす。何だか俺だけ鈴羽を意識しすぎてるからかすっげー恥ずかしい…!格好悪いと思っても一向に顔の熱は下がりそうになくて、また少し強く腕を掴んだ。
「…雪男君は確かに好きだけど、その意味で強くなりたい訳じゃないよ、」
「じゃあ、何でだ!?」
強く問いかけた瞬間、鈴羽は照れくさそうに視線を俺から逸らして「雪男君みたいに強くなれたら、私でも燐君守れるかなって…」と言って小さくはにかんだ。  
「なっ…なななななな゙!?」
「、燐君?」
「(お、おお落ち着け奥村燐…!今だ、今ならいける…!)鈴羽!!」
「うん?」
「す、すっ」
「す?」
「、好きだ…!鈴羽!」
時刻は夕方、普段は青い空も夕陽によってオレンジ色に染まっている。お互いの顔も空の色と同じ様で。足元には俺達だけの影がある。そんな中でも分かる位に、鈴羽の顔は真っ赤に染まっていて。めちゃくちゃ可愛いと思った。
「あ、ありがとう…!私、その、凄く嬉しい…」
「えっあ、いや…!えと、今のはなんて言うか、」
「…私も好き、優しい…燐君の事が」
「…っ!!ぉ、おう…」
俺も、鈴羽も、真っ赤だ。熱くて、溶けちまいそうな位に。掴んだ腕も熱くて、熱が伝わるんじゃないかと焦る。でも、離したくない。折角両思いになったんだ、せめて寮に戻るまでは繋ぐ位良いよな?
「そ、そろそろ帰るか!!」
「っうん、そうだね…あ、」
「鈴羽、どうした?」
「鍵…使わなくて良いの?」
そしたら一瞬で帰れるけど…、と言いながら鍵を見ようとする鈴羽に慌ててポケットから見えていた鍵を見えないように突っ込む。今…見えたか?見えてないよな!?
「!私、慌てて鍵置いてきちゃった…!燐君は持ってる??」
「おっ俺か!?、いや実は俺も、」
「忘れ、た…?」
「は、はははー…」
そう笑って誤魔化せば、鈴羽も苦笑いを零す。仕方なしに歩いて帰る事にして、止めていた足を一歩また一歩と動かした。周りには本当に俺達しかいなくて、もしかして今此処は俺と鈴羽しかいないんじゃないかって思うくらい、静かに時が進む感覚を感じる。
「(このままだと…歩いててもすぐに着きそうだな…)」
ちらりと視線を横に向ければ、まだ頬の赤らみが消えていない鈴羽の顔が見える。何も話さなくてもただ隣にいるこの居心地が良くて、凄く落ち着く。
「…なあ、鈴羽」
「ん、なあに?」
「その、さ」
「うん」
「今日、泊まらね?」
「へ…え…!?」
「いっいや!変な意味じゃねえぞ!?今日は雪男任務で帰れないし、俺はただ、お前ともう少しいたいだけで…!って何言ってんだ俺!?」
ただ思うがままに言葉を紡げば自分で何を言ったのか分からなくなってしまって。自分の言葉に自分で恥ずかしくなって頬を掻いてると、クスクスと鈴羽が笑い出した。
「あははっ燐君、かわいい…!!」
「ああ゙!?かっ可愛いって何だよ…!?」
「ごめっだって…!」
言いながら笑う鈴羽にまたさらに顔が熱くなる。この状況が凄くいたたまれなくなって、繋いだ手はそのまま早足でまた歩き始めた。
「っ燐君、行っても良いの?」
「…何処にだよ」
「燐君の部屋」
「!!、まあ…良くない事もねえけど」
言えばまた鈴羽は笑う。今度はさっきと違う、はにかんだ様な。ああ、これだ。俺が一番に惚れた顔、してる。
「ありがとう、燐君」
「…さっさと行こうぜ」
「うん!」
-そしてまた、歩き出す-


繋いだ手はそのままに




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