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それから1


最初の出来事の続きです。

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私の想い人は、常連さんだと知りました。

バイト初日から何日か経って気付いたのは、タイムセールをやっている日は高確率であの人がいるという事だった。因みに今日の私はレジではなく試食のコーナーにいる人だ。焼いて、試食して貰う、あれ。サッと焼いてソースをかければとっても良い匂いがする。私も食べたい、なんて思ってるのは勿論声には出せない秘密。タイムセールでいつもより賑わう今日の職場でいつもより捌ける試食をただひたすらに焼いていると、そこに現れたのは感謝のあの人だった。

「これ、食べていいか?」

「えっ!?も、勿論です!どうぞ!」

一口サイズのお肉の乗った小さなトレーを、彼に渡す。渡した瞬間、一瞬指先が触れてしまい緊張したが、その時はとくに胸の高鳴りなどは感じなかった。口に含んで噛んだ後、ん、うまい、と独り言くらいのボリュームで呟いた彼に反応すべきか悩みつい、オススメです、と声をかけてしまった。

「でも今月ピンチだからなあ……」

「そ、うなんですね。…あ、これ、どうですか?」

売り込んでる物とは別物だが、試食のものよりもっと安くて手頃なお肉を差し出した。こうすると美味しい、というちょっとした個人的情報も伝えると、へえ、と言った後にお肉を受け取ってくれた。これは何ていうか、ちょっと、いやかなり嬉しい。自然と緩む頬はそのままにいつもありがとうございます、と勝手に口から言葉が出てしまった。

「えっ………ああ、うん。そっちも、いつも大変だな」

「!あ、ありがとう、ございます…!!」

まさか向こうも私の事を覚えて、いる?いや、そんな訳ないか。多分きっと適当に言ったのだろう、私はその時そう思っていた。でもやっぱり面と向かって言われると嬉しいもので、また私の頬はだらしなく緩んでしまう。気付けば試食コーナーにはまた人が来て、いつの間にかあの人はお肉を買いにレジに行ってしまった。ああ、名前、聞けなかったな。


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