最初の出来事
私は、十数年生きて今初めて恋をしました。
私が住むZ市、いや、Z市だけでなくこの世界には、妖怪?怪人?がいる。それを倒して街の平和を守ってくれるのがヒーローという漫画やアニメの中に出てくるような人達。私の中で世界の見方はそんな感じです。実際にヒーローを見た事はあるけれど、幸いな事に怪人が現れた場所に居合わせた事もないし、ましてや襲われた事もない。だからテレビのニュースも、災害レベルが鬼以上の時に避難したりした位しか経験が無かった。
今日も今日とて平和。
私は学生として学校に通う為にバイトをしながら過ごしている。バイト先はよく使っているスーパーで、それなりにお金も貯まったから親の援助を有り難く受けつつ一人暮らしを始めた。今の所は順調で、料理はそれなりに出来るから苦労した事は本当に金銭面くらい。と私の私生活は置いておいて、早くバイトに行かなくちゃ。
「いらっしゃいませ、お預かりします」
今ではサラッと口から出る言葉も、バイト初日はどもって上手く言えなかったものだ。レジ操作もよく分からないし、バーコードが中々商品を認識してくれなかったり、後ろでサポートしてくれる先輩の視線にプレッシャーを感じたり。あわあわしながら接客した初めてのお客さんの前で、私は案の定やらかした。
「ひゃ、123円の、お返しでっすぅ…!?」
「あ、」
小銭をひとつまみに纏めて渡そうとしたのに、緊張で力加減が分からなかったのか小銭は私の指から弾かれる様に落ちてしまった。しかもレジ下の隙間に入っちゃうし、どうしようもう絶対クビだ!と思った私は、溢れる感情のまま涙目になりつつすみません、とただひたすらに繰り返した。
「いいよ。あ、釣り募金しといてくれ」
「えっあ、あの…!」
小銭を取り出そうとした瞬間、まるで何でもないようにそう言ってのけた人は、そのままビニール袋を持って店を出ていってしまった。お金返さなきゃ、って思ったけれど、後ろにはまだ並んでいる人がいる。後ろ髪を引かれる思いで何とかその後はやりきり、先輩からはアドバイスを頂いただけでクビになる事はなかった。
「御礼、言えなかったな」
御礼と言うべきなのか謝罪と言うべきなのかはあれだけど、もしあの人じゃなかったらいくら研修生でも怒られてたかもしれない。そう思うとあの人に感謝しか感じなかった。私の脳裏に焼き付けられたあの人の姿は、絶対に忘れることはないだろう。何故ならあの人は、その、綺麗に髪の毛が無かったから。
「スキンヘッドにしてはツルツルだし、年齢もそんな年代じゃなさそうだったし……」
ブツブツと独りごちてハッとする、何て失礼な事を考えているのだろうか。頭を横に振って邪念を吹き飛ばし家まで歩き続ける。今思えば、それが私とあの人の初めての出会いだった。まさか、そんな人を好きになるなんて。
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続くかもしれないし続かないかもしれないシリーズ。書きたいとこだけ書くかもしれないシリーズ。サイタマさん格好いいです。
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