君と私
ヒイラギさん宅セイラくんとのお話
「…………!!君、待って!!」
「!(あの時の女)」
見覚えのある後ろ姿を見つけて、一直線に彼の元へ寄った。どうやら彼も覚えててくれたみたいで、小さな声だったけどこんにちは、と反応してくれた。あれから何日か経って、中々会えなかったから望みは薄いと思ったけど……暫く滞在することにした甲斐もあり、やっと会えた事が嬉しくて、ついつい笑顔になる。
「あの、この前の怪我はもう大丈夫?私、あの時咄嗟にお金渡しちゃったけど………ちゃんと足りたかな」
「あ、………うん、僕は大丈夫。ありがとうお姉さん」
「御礼なんて全然いいのに!寧ろ私が不注意だったんだから」
「(面倒だな…………さっさと離れるか)」
大丈夫だとは言ってくれたけど、何だかやっぱり気がかりだなあと思う。そのまま彼を見ていれば、じゃあ僕もう行くから、と私に背を向け歩き出してしまった。あっ、と思うも素早く動くものだから、もう彼の姿は見えなくなっている。
「何だか猫みたい」
そう思い、今日は追いかけるのを止めた。もう一度会えたということは、彼もきっとこの町に滞在しているのだろう。それならば、焦らなくても大丈夫。少しずつ、彼の事を知っていけばいい。
「(………あれ?何で知ろうとしてるんだろう、私)」
確かに、最後まで責任を持とうとは思ったけど、彼と仲良くなる必要まではない。仲良くなれるのならそれは嬉しい事だけど、そこはあくまで出来たらの話な訳で………どうして、そう思ったんだろう。
「また会えたね、こんにちは」
「!また、会ったね…お姉さん」
「うん、そうだね!今日も元気??」
「大丈夫だよ、僕はこの通り元気。だからもう僕のことは、」
「ほんと?じゃあさ、一緒にご飯食べない?そんな所で食べるより、絶対楽しいよ!!」
「(何言ってるんだこいつ)は………?」
誰もいない路地で1人寂しく食べている彼は、とてもつまらなさそうだった。今日も今日とて同じように過ごそうとしていたから、今回はお誘いをしてみる。ちゃんとしたお店の中で食べつつ、誰かと一緒に食べるのは今より確実に楽しいだろうと思ったから。早速行こうと腕に触れると、この前みたいに振り払われなかったけど身体がとても強張ったのが分かった。………もしかして、怖がってる?
「………大丈夫だよ」
「何言って、」
「私はただ一緒に、君とご飯が食べたいだけ。あとはお話とか出来たらいいなーとか思ってるけど………話したくなったらで全然良いから!」
「……………」
そう伝えれば、静かな溜め息の後に少し身体の力が抜けていった様な気がした。そのまま優しく引っ張り此処最近で美味しいと思った店に入る。適当に料理を注文して待っていると、目の前に控えめに座る彼は窓の外を眺めていた。君の景色は、どんな風に見えるのだろう?明るい、それとも暗いーーーはたまた何も感じていなかったり。彼を見つめながらそんな事を考えていると、不意に視線が交わった。あ、と思い話そうとすればタイミングが良いのか悪いのか、料理が私達の席にやってくる。
「あ…………うん、とりあえず食べよっか」
「僕は別に…………」
「そんな事言わずに、ね?これとかとっても美味しいよ!」
「でも、お金とか……………あんまり、無い」
そのことに思わず拍子抜けしてポカンとしてしまった。そこまで考えているだなんて、しっかりしているというか何というか…………年の割りに大人すぎると思った。気にしないで、私が全部出すよ、と彼に告げ早速と目の前にある食事に手をつける。うん、今日も此処のご飯は美味しいなあと満足しながら食べすすめると、恐る恐るといった形だけどスープに手をつけてくれた。ふふっと笑いながらそこに会話らしいものは無いものの、楽しく感じる。彼もお腹が空いていたのか、食べ進めるにつれ普通に食べていた。
「私、レミニスっていうの。今まで自己紹介的な話ってしてなかったよね?良かったら、君の名前教えてほしいな!」
「っ……………僕は、」
そこまで言い、続きを喋ることは無かった。名前を聞いた途端、彼を初めて見たあの時と同じ闇を感じて私もそれ以上聞けなくなる。料理を食べ終えた去り際ありがとう、と小さく聞こえたのは絶対気のせいなんかじゃない。でも、またねと告げた事へは返事は返ってこなかった。弱々しく私に背を向け去っていくその姿は、とても脆い。どうして君は、そんなに苦しそうなの?私じゃ、君に何もしてあげられない?そもそも私は、どうしてそう思っているの?
「……………私は、」
それは、きっと君が私に似ているから。
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