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始まりは探り合い


ヒイラギさん宅セイラくんとのお話

初めて会った時は、暗い闇を感じた。その姿にはまるで似合わない重苦しい、社会の淀みを知った光ないものを纏った彼は、一言で言うと放っておけない存在で。こんな私でも彼の力になれるのなら、なりたいって思った。




「ありがとうございましたー」

初めて訪れる町、エーギルにて1つ目の依頼を終えた。誰もいない所で傷の手当てを軽くして、見渡した町中は何もない日常のよう。今日の天気は曇り、あと少し崩れたら雨が降りそうな感じがした。私の相棒ならば、きっと好むのだろう、水は彼の属性だから。


「っあ、」

「痛………ごめんなさい、お姉さん」

「ううん、私の方こそごめんなさい!怪我、してない?」

「大丈夫。このぐらい大したこと……っ」

「何処か痛めたんだね、本当にごめんなさい…っ!今手当てするから、」

そう言って彼に触れようとした瞬間、やめてくれ!!と強く反応を返された。ハッとして彼を見れば、何処か恐怖を感じているような表情をしている。身体は少し震えていて、前に何かあったと訴えているような感じがした。私が空を見ていたから彼が前にいたことに気付かなくて、ぶつかってしまったのが原因で彼に怪我をさせてしまったーーでも、彼に触れる事は今はとてもじゃないけど出来ない。思考を巡らせ、先ほど貰った報酬の袋を差し出した。

「不躾でごめんなさい。これは君にあげるから、それで手当てしてね」

「え……………でも、僕は…」

「気にしないで!私が悪いの、だからもう行くね。お大事に」

そう残して彼から離れる。今はこの場から離れるのが良いと判断したから。まだ何か私に言おうとしていたけど、その言葉は私に届かなかった。それよりも、先ほどの報酬だけで良かったのだろうか?もしあれで足りないようだったら、ちゃんと責任を持って最後まで見ておくべきだったのかもしれない。そう考えつい、やっちゃった……と声を零した。彼はここに滞在しているのか分からないから、もう一回会える確証がない。

「…………うん。次また会えたら、声かけよう。それでまだ怪我が治ってなかったら、次は私が何とかする。決めた!」

決意し念のため振り返った先には当然ながら彼の姿は見えなかった。そういえば、名前聞き忘れちゃったな、と思いつつ人通りの多い道に入る。今日のノルマはまた振り出しだけど、何てことはない。また敵を倒せば強くなるし、誰かの役にも立てる。私がもっと頑張れば良いだけの話なんだから。



「……………大したことないな」

立ち上がって服についた汚れを払う。さっき会ったあの女、俺がわざとぶつかったのに何も疑ったりしないで、バカなやつ。オマケに自分の報酬まで俺に渡すもんだから、少し拍子抜けした。俺に触れようとした時はついカッとなってしまったけど、多分あの女は特に思ってないだろう。また良い標的見つけたなと思い女が去った方を見れば姿は見えなかった。当然か、と思いつつまだその方向を見ていれば、にゃーんと下から声が聞こえる。

「……………また、来たのかよ」

「にゃーん」

「懐かれたら困るんだけど…………、はぁ」

ふと手に持つ袋に視線がいき、一息つく。あの女が渡した報酬は充分すぎるほどで、とてもじゃないけど本当に怪我の手当てで使っても余裕で余るほどだった。相場が分かってないなとまたバカにして、足元の猫を見る。…………俺は、野良猫は飼わないんだけどな。

「…今餌持ってきてやるから、此処で待ってるんだぞ」

そう声をかければ、理解したのか嬉しそうな声で返事が返ってきた。変なヤツ、と零し仕方なしに餌を買いに足を動かす。そういえば、名前くらい聞いてやっても良かったかと思ったけど………別に此処にこれからいるのかも分からないし、別にどうでもいいか。また会えば、適当に愛想を振り撒けば良いだけの話しなんだから。

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