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君のおかげで


ヒイラギさん宅セイラくんとのお話

「ーーだから、諦めてよねー」

ミルノ共和国にあるエーギルに滞在している中、友人の声が聞こえた。声のした方向に目を向けると、やはりセイラが誰かと話をしている。依頼の話かなと思ったけど、予想は的中しなかった。彼の手には報酬の袋が無い、知り合いだろうか??

「おはよう、セイラ」

「!レミニス、急に話しかけたら吃驚するだろ」

「驚いた??」

「驚いてない!!」

勢い良く振り向いたセイラは、ちょっと怒り+呆れの表情である。少し笑いながらもう一度おはようと言えば、ぶっきらぼうにおはよ、と返答が返ってきた。うん、今日もいつものセイラだ。そしてセイラと話していた相手の人は、会釈をし去って行く。……あれ、今の人。

「この前助けてくれた人!」

「は?……ああ、あいつね。レミニスは気にしなくて良いよ」

「でも折角また会ったんだし、挨拶くらいはした方がいいよね!」

「だからいいんだって!…ほら、俺がさっき御礼言ったんだよ。レミニスが迷惑かけてごめんなさーい、ってね」

「ええっ?そんなに私、迷惑かけたかなあ……?」

「そうそう」

レミニスはいつも無謀な事するから、とセイラからグサグサと痛い言葉を浴びる。さっきの人は、以前私がある人の依頼を受けた時に、たまたま私の依頼品捜しを手伝ってくれた人だ。勿論、最初は申し訳ないと思ってちゃんとお断りした。でも手伝いますよって優しく言ってくれたので、つい甘えてしまったのだ。

「うーん………じゃああの時は頼らず1人で頑張らなきゃいけなかったって事だよね。そうなると確かに迷惑かけたかも…」

「別に1人でとは言ってないけどさ、だから」

「やっぱりあの人に謝ってくる!!」

「!?ばっバカじゃないの!!あーもう、レミニスは本当にバカだよね!!知ってたけど」

「えっどうしたのセイラ、何で怒ってるの!?」

突然不機嫌が最高長になった事に吃驚して慌てて歩き出したセイラを追いかける。待って、と声をかけるも嫌だと突き放され、折角俺が……とブツブツ呟きながらどんどん離れていく。怒ってる原因が分かれば改善策を考えられるけど、検討もつかず。焦りも感じ始めて、思わず彼のマントを掴んでしまった。

「……………何」

「セイラ、ごめんね」

「何で俺が怒ってるのか分かってないだろ。それなのに謝られても困るよ」

「それは…………でも、」

「レミニスさん!!」

「え?」

不意に横から私を呼ぶ声が聞こえる。視線を向けた先には、先程会った人だ。私を手伝ってくれた人。さっき別れたばかりだけど、どうしたのか私達の所に返って来たみたい。こんにちは、と挨拶をし、そうだそのまま御礼を言ってしまおうと口を開く。セイラのマントを手から離した瞬間、またセイラがいつの間にか私の前にいた。小さな背中が、私の目の前に。

「セイラ………?」

「またあんたか。さっきも言ったのにまだ何かあるの?諦め悪いねお兄サン」

「違う、君に用はない。僕は彼女に話があるんだ」

「え、ええーっと……何の話?」

二人の間の邪悪な雰囲気が、どういう状況でそうなったのか理解出来ず。レミニス喋ると五月蝿いからとりあえず黙って、と片手で制され言うとおり黙る事にする。今の2人は隣に私がいる事なんて忘れているんだろう、正に2人だけの空間。結界で閉ざされたよう。

「仕方ないからもう一回言ってあげるよ。お前には無理、だから諦めるんだね」

「それは彼女が決める事だろ?大体、さっきから何なんだ子供のクセに!!」

「見た目で判断しないでくださーい。中身はお前より大人だっての」

「何を………っ!!」

「ま、ままま待って!!やっぱり傍観は出来ないよ!!とりあえず、喧嘩は止めよう?」

流石にやばいと判断し割って入れば何とか会話が止まる。よく分からないけど、とりあえず落ち着いてと声を掛ける。セイラからは深い溜め息が聞こえ、一方彼は気まずそうに遠くを見ている。このまま放っておいたら悪い方向に進みそうだから、私が何とかしないと。

「とりあえず、もう解散!!」

「は?」

「このまま話しても解決しないよ。今日の話はもうおしまい、続きがあるならまた後日!!貴方も、今の状況じゃお話はしづらいから後日来てほしいな」

「……だってさ。どうすんの?」

「………分かった。また後日話しに来ます」

「はい!待ってますね」

「どうせ無駄だけどなー」

最後の最後に毒を残し、彼はこの場を去ったていった。ふう、と息をつき何とかなった事に安心する。ふと横からレミニスってほんとお人好しだよね、と言われセイラへと視線を向ける。ただセイラの顔は私の方へは向けられず、あの彼へ厳しい視線が強く注がれていた。あの人と何かあったの?と尋ねれば、あると言えばあるし、ないと言えば無い、との返答。

「レミニスはもう少し危機感を持ってよ」

「?危機感なら持ってると思うんだけど」

「あー、戦闘の時ならね、戦闘だよ。ってか戦闘の時しか持ってないでしょ」

「日常も持ってるって!……多分」

「…………はぁ」

本日何度目か分からない深い溜め息。日常での危機感だって、スリをされないように気は配ってるし、これといって大きな問題は起きてない。それの何処が足りないのだろうか?

「…………もっと、」

「え?」

「もっと自覚するのとホイホイ笑顔は振りまかない、すぐに優しいって判断しない、無駄な事に突っ込まない、それから、」

「えっ待って待って多いよ改善点!!」

「全部原因だからだよ!俺は保護者じゃないんだ、もうちょっと相手の思考を読め、バカレミニス!!」

「えええ、えっと………わ、分かった!!」

とりあえず勢い良く返事をすれば、絶対分かってないよな、と釘を刺される。でも理解はしたよ、と返せば、はいはいといつものセイラに戻ってきた。その事に安心していると、じゃあねとセイラはまるで何も無かったかのようにこの場を離れようとしたから、すかさず腕を掴んだ。

「何ですかレミニスさーん」

「このまま折角だから一緒にいようよ!」

「折角だからってほぼ毎日じゃん……」

「だって、私には危機感が足りないんだよね?これから気をつけるから、それまで一緒に見守ってほしいな!ね、セイラさん!」

「っさん付けとかキモいから!!分かった分かった、じゃあ猫の餌、買いに行くぞ」

「はーい!」

なんだかんだ言いつつ、結局付き合ってくれるセイラが一番好きな所である。えへへと改めて隣に並べば、今度はセイラが前を歩く事はなかった。一緒に進む歩幅、一緒に見る景色がキラキラして見える。やっぱり、1人より2人の方が楽しいよね。だからこれからも見守って下さい、小さなナイトさん!


(君のおかげで)

「お前、レミニスの事好きなんだろ」

「何だ?君には関係はないな」

「否定しないんだー、好きなんだー、へー」

「………何が言いたい?」

「お前には無理だね、レミニスバカだし。だから、諦めてよねー」

(変な奴に捕まったら、俺が大変なんだからな)

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