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見初められた咎追い人


只今の私、とてもピンチです。どのくらいピンチかって言うと、今にも食べられそうなくらい。語弊があったり比喩なんかじゃなく、本当に食べられそうなのだ。

「ひい……っ!や、やだあ…!!」

「キヒッキヒヒヒ!!女 ワレ 喰う 蒼 蒼 ホシイ!!!!」

「わっわわわ私は蒼の魔道書も、蒼に関するものも何もないです!!ただの咎追いの見習いなだけであって…!」

「無用 ワレ 喰う!!」

「いやあああ!!だだだだだダメー!!」

今にも私を食べそうなのは、賞金首のアラクネ。私は咎追いとして誰でもいいから賞金首を捕まえようとしたら、この様だ。ちなみに私に力はそこまでない。あったとしても護身術くらいで、とてもじゃないけど咎追いなんて名乗ったらいけないのかもしれないけど……正直、こんなに咎追いが大変だなんて思わなかった。とりあえず何とかしないとと、ポシェットの中にある自作の小型麻痺爆弾をアラクネに投げつける。効果はその名の通り、爆弾に麻痺効果をつけただけのもの。ボンッと激しい音を立てた爆弾にホッとするも、煙の晴れた景色に顔が一気に青ざめる。……全く、効いてない。それどころか、何を煽られたのかさっき以上に興奮しているような感じがした。

「私が甘かった、甘かったんです、だから食べないで、お願い……!!」

「キヒヒヒヒヒ!!」

こんな事なら咎追いなんて無謀な事なんかしないでただの町娘で毎日を過ごせば良かったと後悔しながら、大きな口を広げるアラクネを腰の抜けた状態で見つめる。食べられたら、私はこのよく分からない物体の中で腐ってしまうのかとか変な事を考える。動きがスローモーションに見えて、これが………死の直前?

「(でも、走馬灯は見えないんだ)」

呑気な事を考えた瞬間、ハッとする。走馬灯が見えないんじゃない、見たくないんだと思って、そうだ私はまだ死にたくないんだと認識する。今自分に出来るのは、生きる希望を持つ事だと!

「っこ、これで効いて!!」

もう一度投げた爆弾は、今だ大きな口を開けたアラクネの口の中へ。少しだけ手応えを感じたアラクネの反応に動かない身体に鞭打って後ろに下がる。でも、アラクネもすぐ立ち直る。…やばい、そろそろ本当に。

「シネ!!蒼 ワレ ヨコセ!!」

「あ…っ……!?」

もうさすがに奇跡は起こらないかと、一回だけでも死に抗った私はよく頑張った、うん、頑張ったよ……死にたくない、けど、今の最善の策は尽きてしまった。他人も、そもそも人の気配すら、もうー。

「女の敵は俺の敵だ、消えな!!」

「大丈夫かい、おめぇさん!しっかりしな!」

「グアァアアアア!グヒッ!!」

「ぁ………く、ろ…と、むら、さき……?」

死を予測した身体は、もう動きそうになかった。視界がぼやける中に、男の人の声が聞こえて。

「(数は、2人……?って、冷静に認識、しちゃって……私、何、やってるの…)」




「おいおい、起きてくれよおめぇさん。すぐ助けなかったのは悪かった、あんたの舞がもっと見たかったんだ、な?だから許してくれ」

「オイ、その嬢ちゃんまだ目覚めてないんだろ?変に刺激すると、身体に障るぜ。……って、アンタ誰だぁ?」

「俺かい?俺の名を名乗る前にまずは、」

「ん………っぅ、うう……?」

「おお!お目覚めかい?」

「おめ、ざめ………?っ!?」

意識が戻り、気だるい身体の重さを感じながら声をかけた主を見やる。パッと見た中で見るには、眩しすぎる存在だ。端正な顔立ち、どこか色気のある独特な雰囲気、だ、誰だ、この人?頭をフル回転させても、起き上がりの頭では先程のアラクネしか、

「あっああアラクネは!?こ、ここは死後の世界ですか!?わ、わた、私は、一体……!!」

「まあまあ落ち着きなさんな。おめぇさんは死んでない、何たってこの俺が助けたんだからね」

「いや待て、正確にはこの俺様が助けたんだよ。……大丈夫かいお嬢さん?ほお…よく見たら中々…あと2.3年したら、別嬪さんになるだろうよ。どうだ、この後お茶でも」

「は、あ、え、ま、ままま待って下さい!あ、あの………貴方達は、誰、ですか…?」

「おや、俺を知らないのかい?まあ無理もないね、俺はまだ此処に来たばかり。もっと世に広めたいもんだ」

誰なのか尋ねると、何故かこの独特な色気の人は嬉しそうな顔をする。そういえば、2人目の人も見たらこっちもかなり端正な顔立ちだ。こ、こんな2人に助けられたのか……人生捨てたもんじゃないのかな、私。

「俺はアマネ=ニシキだ、よろしくなおめぇさん」

「俺はカグラ=ムツキだ。カグラで良いぜ」

「アマネさんと、カグラさんで……えっ!?あ、ああ、アマネ、かかかカグラ……!?もっもしかして、舞踊のアマネ=ニシキさんと、統制機構の最高司令官のカグラ=ムツキさん…!?」

心臓が跳ね上がる程に吃驚する。そんな大物の人達に助けられたなんて、奇跡が起こりすぎて数年分の運を使い果たした気分になる。私が名前だけ知っていた反応をすると、2人は嬉しそう顔をする。そんな顔を向けられて、どう反応すれば良いのやら……2人は人気者だ、ファンの人達に申し訳ない…!!

「ハッそ、そうでした!!わ、私まだご紹介がまだでしたよね!…私の名前は、鈴羽=雪橋です。お好きな様に呼んで下さい」

「じゃあ俺は、鈴羽って呼ばせてもらうよ」

「んじゃ俺は鈴羽ちゃんな」

「(お、おおお恐れ多すぎる…!!)はい、よろしくお願いします!」

努めて冷静に、心の中ではドキドキだが何とかそれを抑え込み2人と握手をする。さあ、名残惜しいが彼らともお別れだ。あ、でも助けてもらったお礼をするべきか、でもでもこれ以上迷惑をかけないために早く別れるべきか、ど、どど、どうしよう。……あれ?

「あ、あの……つかぬ事を、お聞きしても…?」

「何だい?」「何だ?」

「て、手はどうすれば……」

そう、握手をした私の手は未だ2人の手に包まれている。未だに、だ。ニコニコと微笑みながら私の手を離さない2人に私は一体どうする事が1番良い選択なのだろう?離して下さいだなんて、そんな否定的な反応したら何されるか…!!

「おめぇさん、そろそろ鈴羽の手を離したら良いんじゃねえか?鈴羽が困ってる」

「何言ってんだよ、お前だって手握ってるじゃねえか。離すなら、お前から離したらどうだ?」

「え、えっと………」

「…言うねえ、おめぇさん。なら、直接本人に聞こうじゃないか」

そう言って私の方を向く二つの視線。こんな綺麗な二人に見つめられたら、中身が分からないとしても、意識してしまうのは自然の摂理だ、そうに違いない。アマネさんの綺麗で細い指が私の手を一本一本、まるで恋人繋ぎのように絡め取る、カグラさんは男らしい逞しい指で小さな私の手を包み込む。こんな事をされるなんて、あ、アラクネには、僅かばかりの感謝をした方が良いのかもしれない。
二人は私に近付き、こう言ったのだ。

「「俺のものになってくれないか?」」

ああ、やっぱり私は食べられてしまうかもしれません。



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