日和/飛鳥組(太妹)
2022/04/01

※エイプリルフールネタ

三日ほど前までは肌寒い風が吹き抜けていた飛鳥にも、ようやく暖かな日差しが差すようになってきた。馬子様から下された特例の休暇のおかげで、朝廷中がしんと静まり返っている。
「……今日はおにぎりの具がツナで残念だったな」
静けさに耐えられずピクニックに連れ出した太子が急いで握ったおにぎりを手に呟いた。
「あんたおにぎりの話をすればツナだのカレーだの言うじゃないですか。年度末で忙しかったのでカレーはないんです。また落ち着いた頃に作りますから」
また太子のわがままか。自分用に握った梅おにぎりを頬張り、ため息を吐く。昨日よりも熟れた優しい酸味の梅と、穏やかな気温が運んできた眠気でとろけてしまいそうだ。
「それにしても、いい天気ですね。はあーあ……道後の辺りはもう桜が咲いてるんでしょうか」
「さあ?私はもう行くつもりないから知らない」
「石碑なかったのまだ引きずってるんですか……またおっ建ててもらえばいいでしょう」
あからさまな無視だとわかるくらいに隣でバクバクとツナおにぎりを頬張り始めた。嫌な拗ね方だ、ムカつく。眉間に皺を寄せ更に大きなため息を吐きながら空を仰ぐと、太陽が真上からやや傾いたところに見えた。日が長くなってきたが朝と夜はまだ寒い。この人には、太子には、風邪を引かせてやれないのだ。
「四つ葉探したいって言ってたじゃないですか……あんまり拗ねてばかりいると早く帰ります、よ」
言葉を紡ぎきるやいなやジャージの裾をつままれる。ぱちっ、と合った目に真っ直ぐ射抜かれた。これはまずい。
「やだ。もっと一緒にいて」
確かな重みを含んだ言葉に、熱を持った顔を頷かせることしかできなかった。



【前日譚:嘘つきになった日】
ぼんやりとした視界には、今朝も見た木目の天井。枕のそばにはころんと丸まった雪丸のふわふわのおしり。そうか昼寝しちゃってたか。
夢の内容は……そうだ、ずっと未来の。
「……嘘を吐いても許される日、か」
面白い習わしだと素直に思った。他人を欺いて利益を得るものなんて世の中にはたくさんいる。きっと今より平穏な時代になっていても、そんな人は必ずと言って良いほど存在しているはず。それならば、楽しむための嘘を吐くなんて、嘘でも誰かが笑ってくれるならと優しい人が思いついたのかもしれない。
「そうだ!」
脳裏にすぐ浮かんだ人物に向かって身体はごきげんに動き出す。妹子が何と言おうと、明日の私は、明日の私だけは、作ってくれるかもしれないおにぎりは嬉しくないし、どこかに行く話が出ても行きたくならないんだ。
「いーもこっ、明日は四つ葉を探しに行こう!」
明日、お前はどんな顔してくれるだろう。





ツナおにぎりで嬉しい!もっといろんなところに行って、いろんなことしたい!
でもこの日だけは内緒。午後になるまで我慢です。



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