日和/太子の過去捏造
2020/09/19
久々にあの夢を見た。もう、見たくもない昔の夢だった。
「……は、っ、はあっ……!」
物陰から見てしまった誰かがこの世に別れを告げる瞬間は、想像以上に残酷で。もしものためにと持たせられた槍を握りしめるので精一杯だった。こんなことにならずに済んでいたのではないか。自分の祈りは届かないままだったのか。絶望と恐怖で身体中が震えていたのをよく覚えている。
「……ぁ、ぐ」
「おい、しっかりしろ!」
「傷が深いな、くそっ……どうして……!」
やっと事態を確認できそうな兵士に声を掛けたところで、すでに限界であることは明白だった。治療の施しようがない。
「……っ」
だらりと力なく腕が投げ出された。からんからん、と無機質に槍の転がる音がする。
「……こんなもの」
武芸と称して弓矢をやらせたら百発百中で、外れそうになっても不思議な力で捻じ曲がり的に必ず当たっていた。こんな争いが起こらなければ、自分は才ある人間だと笑っていられたのに。
「もう……こんなもので誰も傷付けないでくれっ!」
ひゅんっと自分の槍を遥か彼方へ放り投げた。もう見たくもない、誰かを傷付けるための道具なんてなくなってしまえばいい。弓矢もどこかで落としてしまった。自分にはもう武器はない、襲われたらそこまでだ。誰かが投げ出した武器を拾って抵抗する気力さえない。その時は結末を受け入れよう。
ぐさり。
「……え?」
背中に何かがぶつかりよろめく。とても、ひんやりとした感触。勢いで口角から飛び出たのはまだ生温かい真っ赤な液体。地面に目をやれば自身とつながっている細長い影が伸びている。その影の正体にとても心当たりがあった。
そうか、もうこれは、自分を傷付けるものへと変わってしまったのか。
「これで、いい……もう誰も」
そこで意識は途切れた。
自分が救いであるスタンスでいてほしくて夢を見た。
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