日和/飛鳥組(太妹)
2019/07/18
※GB4巻ネタバレあり。
どうにか誤魔化そうとしたけれど結局潔くあきらめた。これ以上何を言っても無駄なことを太子の額に刺さったハサミが物語っている。
「本当に……すみませんでした」
「……いや、私も頼んでおいてごめん」
そそくさと応急処置を済ませて改めて謝ると、少し落ち着いた太子も謝った。バツンと勢いよく前髪が切れてしまってからの喧嘩はいつも通りといえばいつも通りではあったが、それでもやりすぎてしまったと反省している。
「あの、太子」
「ん?」
「今度はちゃんとナチュラルな感じに仕上げますから……そこ、座ってください」
「……!今度はしっかりやれよ」
少し浮かれながら手際よく布を広げ襟元に結び目を作った。無駄にセッティングが早くてムカつくが、大丈夫、次こそは。見慣れない前髪があるせいで、見慣れた得意気な顔にすら驚いたりしないだろうから。
「いきますよ」
深呼吸して声をかけた。太子は返事の代わりにゆっくりを目を閉じていく。壊れ物のようにそっと前髪を掬い上げ、まだ少し震える手でハサミを入れた。
しゃきん。
慎重になったからか先程とは比べ物にならないくらい上手く切れた。このまま、このままだ。両方を同じくらいの長さに整えて。ぱっつんだと文句を言うだろうからほんの少し縦にも切って。
「……で、できましたよ」
「どれどれ……おおー!やればできるじゃないか妹子!」
手鏡に映った自身の顔を見て満足げに笑った。少しだけうざいが何度も顔の角度を変えて前髪を見ている。どうせ冠でおさえるのに。
「ありがとうございます。改めて真面目にやると緊張してしまったんですが、途中からハサミが手になじむような感覚になってきたんです。おかげでうまく切れましたよ」
「あ、ばれた?」
「え?」
「それ、妹子の手の大きさに合わせて買ったやつなんだ。臣下たちは私が臭いからって断るし、調子丸も竹中さんも予定が合わなくてさ。やっぱり妹子に頼むしかないなって」
何だそれ。初めから僕に頼むつもりで物まで用意してたというのか。じわじわと顔が熱くなっていくのを感じる。
「前髪、切ってくれてありがとう。妹子」
そよ風にふわりと揺れた前髪と優しい笑顔に、またどきりとしてしまったのは内緒である。
「いつもと違う笑顔」というアンケ結果でした。
正装の話をしただけなのに前髪の話題に持っていきますか?天才すぎます。
ますこう先生左利きなのに描かれてるハサミは右利き用に見えたので、切ってもらうために用意しても良いんじゃないでしょうか。皇族だし、やろうと思えばできますよね。
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