ハッピートゥルーエンド!
2021/03/25
突然ですが、私の彼氏を紹介します。いやいや待って、本当に。お願いします聞いてください。私の彼氏は同じ会社の先輩で、飲み会だったか休憩時間にスマホでゲームしていた時だったか、どこからともなく声がしたのだ。思い出した。ゲームしてた時だ。
「俺もやってるよ、それ。フレンドにならない?」
「……あ、はい。どうぞ」
ほんの軽い気持ちだった。ゲームをする上でフレンドは少ないよりは多い方が便利だから。そんな出会いから早一年、私は彼氏の部屋にお邪魔しています。お家デートっていうんだよね、こういうの。やっているのはゲームだけなんだけれど。
「先輩、これって今秋発売のゲームですよね? レベル高くないですか?」
「え、そう? 発売日の次の日休みだったからオールでやってただけだよ」
「相変わらずのゲーマーっぷりですね……」
「そういう君はまったりライトゲーマーのルートですか。いつも通りの」
「悪かったですねっ」
彼女としてできる努力のためにも時間を使ってたんだもの。クールで仕事もできる先輩は職場内でも人気がある。同僚の子にすら相談できないまま、この日を迎えたのだ。
二人ともいい年頃だし、期待するとこは期待しちゃうじゃない。
「そんな顔するなって、ごめん」
「別にいいですよ。先輩と一緒に過ご……ゲームするの、楽しいですから」
「そうか、それなら……」
画面が止まった。もうルートの分岐点まできていたらしい。
「この先も俺と一緒にマルチプレイしてくれるか? 人生の、マルチプレイを」
ついに言ってしまった。できる限りの笑顔を向けているが、実は背中の冷や汗がダラッダラである。当の彼女はきょとん顔のままフリーズ。気まずいったらない。
「……人生の、マルチプレイ……?」
「うん」
うん、じゃない。恥ずかしくなってきた。誰か助けてくれ、と救難信号を出しても誰も来るはずがない。逃げちゃダメだ。彼女の反応を見ろ。どうだ。
ほんのり赤い頬、ぎゅうっと胸元をつかむ手は心なしか震えている。これは……やったか? いや、それはやってないパターンだ。
「確認、なんですけど」
「……なあに?」
二人して声が震えてらあ。
「どこが決め手だったんですか?」
「即死級の笑顔でいつも一緒にいてくれるし、しっくりくる感じだね」
「本当に、私で後悔しませんか……?」
不安そうに瞳が揺らいでいる。今すぐにでも抱きしめてやりたいが、彼女の気持ちが大事だ。こらえるんだ、クールになれ。
「俺はね、他でもない君が良いんだ。だめだめなゲーマー野郎のためにオシャレとかデートとかしてくれる君が好き。大好き。だから……君との幸せな毎日に課金する人生を選ぶことにしたんだ」
だああクールになりきれてない件について。いっそのこと忘れてほしい。また度胸がついたらもう一度伝えるから、時よ戻ってくれないか。
「……その人生ならいくらでも課金しちゃいそうでそうですよ、先輩」
よろしくお願いします、と控えめに言った彼女の笑顔にライフがゼロになった。
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