もし、もしもさあ、 純太がわたしの隣からいなくなってしまったら、わたしはいったいどうなっちゃうんだろう
同い年で、ご近所さんで、親同士も仲の良いという典型的な幼なじみなわたしたちは、小さいころから何をするのにもふたり一緒で、本当の兄妹に間違われることもあるほどだった。 (ちなみにわたしの思い出せる中で一番古い記憶は、遊んでいる最中に転んでしまって大泣きしているわたしをなんとか泣き止ませようとする純太の顔だ。)
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夕焼け色の道に伸びた2人分+αの影法師 自分の相棒ともいえる自転車を押しながらわたしの隣を歩いていた純太が何かを思い出したように小さく「あ、」と呟きわたしに笑って向き直る。
「そういや、名前が前に気に入ったって言ってたバンド、来月CD出すってさ」 「わ、本当?またCD貸してね」 「いいけどさ、たまには自分で買えよなあ」 「いいじゃん。純太が持ってるのにわざわざ買う意味ないじゃない」 「そりゃあそうかもしんないけどさ…」
こんなふうにとりとめのない会話を重ねる心地よい時間はわたしの楽しみの一つだ。 男女の幼なじみは成長とともに疎遠になってしまうことが多いとよく聞くけれど、わたしと純太にはそれは当て嵌まらないようで、部活のない日や今日のように時間が合った日には必ず一緒に帰るし、休みの日にはふたりで出掛けることだってある。 わたしの特別はいつだって純太で、純太の特別はいつだってわたしだった。 (だけど、わたしたちいつまで一緒にいられるんだろう)
「ね、純太。手つないでくれない?」 「は?なんだよ幼稚園児じゃあるまいし」 「昔みたいでいいじゃん。ね、お願い」 「ったく、仕方ないなあ名前は」
わたしがねだれば、純太は器用に右手で自転車を押しながら空いているほうの手を差し出す。 わたしのドジやわがままを全部「仕方ないなあ名前は」って、笑って受け入れてくれる純太が好きだ。 いつもは自転車のハンドルを握っている、ちょっと硬い掌が好きだ。 笑うと少しだけ下がる目じりが、癖のある髪が、機嫌がいいときの鼻歌が好きだ。
プライドが高くて、ちょっと皮肉屋で、努力家な純太をずっと見てきた。 いつもよりいいタイムが出たと笑う時も、自分の順位を睨みつけて自分は凡人なんだと自嘲するようにこぼした時も、ひたすらペダルを回し続ける純太を、ずっとその隣で見てきた。
だからこそ、わかってしまうんだ。 純太はもっと強くなる。きっといつか、わたしの追いつけないような所まで行ってしまう。 遠くない未来の予感を振り払うように小さく息を吐き、繋いだ手にきゅっと力を込めた。
「ん?どうした名前?」 「んー、なんとなくね」
きょとんとした顔でわたしを見る純太に、わたしは上手に笑えていただろうか。 変わっていくのが怖くて仕方ないわたしは もう少しだけ、君とこうしていたいの。
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