先輩の方がかわいいです


僕はいつか監督や先輩たちに教えてもらったパンを持っていた。
値段は高いものの、本当に美味しいから販売されているときに食べたくなる。仕方がないです。
いつもなら火神君も一緒にいるけれど、火神君は味より量らしく再びあの長いパンを手に入れようとしているようで勝手に屋上に来てしまった。
まあ、彼ならそのうち来るだろう。
買えれば、の話ですけど。
僕が買って来ましょうか、と言っても負けず嫌いな彼は自分が行くと言い張ってのだからもしかしたら買えなくて来ないかもしれない。
彼は意外に恥ずかしがり屋なのでありえます。
頑張ってくださいと一応言い残して来たものの、少し気になっている自分がいた。
そんなことを考えていればキィと小さな音を立てて戸が開く。
戸を何気なく見た僕は思わず目を丸くした。
「あ、黒子君!」
「名前先輩…、どうしたんですか?」
「実は今日天気いいから久しぶりに屋上で食べようと思って。」
やっぱり火神君。頑張らなくていいです。
 
一緒に食べていいかな?と尋ねられ僕は頷く。
大歓迎ですと言えば大げさだよと笑われた。僕にとっては当然なんですけどね。
可愛らしい布袋に入った弁当を取り出し、いただきますだなんて丁寧に言っている名前先輩はやっぱり礼儀正しいというか常識を持っているというのでしょうか。
黒子君は弁当じゃないの?と尋ねられ、はいと頷けば近くにあったパンをみて、購買だと納得したようだった。
「そのパンなんていうの?」
「イベリコ豚カツサンドパン三大珍味のせです。」
「えっ!あのイベリコ豚カツサンドパン三大珍味のせ!?」
「はい。」
「黒子君よく手に入ったね!私も購買に行ってはみるんだけどあの中を行くにはどうしても勇気がなくて。」
「仕方がないですよ」
名前先輩がそういうのも仕方がない。
本当にあの中に入るには勇気がいるだろう。僕は特別なんですけどね。
あれほどに自分の影が薄いことを嬉しく思ったことがない気がする。
「あの…良かったら名前先輩も食べてみませんか?」
「えっ、で、でも黒子君のでしょう…?」
慌てて左右に手を振る名前先輩に僕はいいんですと答える。
「僕、すごい小食なんで結局残しちゃうんです。だから。」
「うううーん……それじゃあ、お言葉に甘え、マス。」
申し訳なさそうに頷いた名前先輩に僕は思わず満足げに笑ってしまった。
まずは黒子君からどうぞと言われ、1口かじりつく。味はやっぱり、あのときと変わらぬ美味しさ。
本当に美味しい。今日これを買えてよかった。
「そんなに美味しいの?」
「はい!…どうしてですか?」
「だって黒子君すっごく嬉しそうだったから。」
可愛くて、と言われてなんとも言えない複雑な気持ちになる。
か、可愛いですか…どうせならかっこいいって思われたいです…。
次は名前先輩です、とパンを差し出せば名前先輩はパクリとパンをかじりついた。
その瞬間目を丸くし、もごもごと口を動かした名前先輩は驚きしかないようだ。
「お、美味しい…っ!」
こんなに美味しいもの食べるの初めてだよ!と嬉しそうに笑う名前先輩に、僕は思わずガッツポーズをしてしまった。
名前先輩があまりにも可愛く笑うのだから、仕方がないことですよね。


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