未来のドン・ボンゴレは今、非常に悩んでいた。
何を悩んでいるのか、と問われればこう答えよう。
彼――沢田綱吉は恋患いを病んでいた。
 何を隠そう、彼が思いを寄せる相手とはあの並盛中のマドンナ、笹川京子――ではなく、最近並盛中に転入してきた笹川京子に続く第二のマドンナと呼ばれる榊雪詠であったからだ。
 否、マドンナと言う部分については問題はない(と言っても彼女との美貌に比べたら寧ろ平凡中の下の下…もしかしたら元より平凡に入るかも分からない下かもしれない)が、沢田綱吉が考えていたのはそこではなく、自分の"恋心"と言うものについてだった。
 
 はっきり言おう。
沢田綱吉は榊雪詠が現れる前のつい最近まで、笹川京子に恋していると勘違いしていた。
 
 沢田綱吉にとってそれは衝撃的な事実であった。
なんと言っても自分自身ですら恋と思い込んでいたからだ。
しかしながら、沢田綱吉にとって笹川京子という少女の存在はやはり特別なものという事実は変わり等しない。
沢田綱吉にとって笹川京子は"少女としての憧れ"の存在。他の少女への気持ちとは違う、また恋心を抱くとは別の感情の"憧れ"という特別なものだった。
そしてそれが沢田綱吉が恋だと勘違いした要因である。
沢田綱吉は今までまともに恋愛をしていない素人であり、少女への"憧れ"と言う非常に類い稀な体験していたのだから、仕方が無いと言っても何も可笑しく無い。
なにより、笹川京子は誰にでも優しく暖かくな心を持つ人物。容姿同様愛らしい性格を持ち合わせている。同年代にも勿論彼女に想いを寄せる者は多数いる。どう考えても釣り合わない。そんな自分がそこにいても、何ら可笑しく無かったのだ。
 だからこそ、勘違いしてしまったのかもしれない。
 
 沢田綱吉は小さく溜め息を吐いた。
(そして俺が本当に好きなのは…、榊さん。)
 これまた、この事実を知った時は衝撃だった。
頭も良くて、運動も出来て、家事までこなしているらしい彼女は、どう考えても完璧だった。
容姿だって幼さがある顔立ちであったが可愛い、というより美人と言う言葉がしっくりくる美貌。
後ろでまとめている黒髪は細く柔らかそうで、瞳は性格に似た力強い黒で、その容姿は大和撫子と言っても過言では無い。少しだけつり上がった瞳は、彼女の容姿を美人と言う言葉へ引き寄せていた。
性格は少女と言うにはどこか大人びていて、その癖どこか幼い。芯が強く、強気な性格だと言うのに優しく、だと言うのに素直になれない子供っぽさ。意外といたづら好きな彼女のそんな幼さに惹かれたのも、また事実であった。
 癪ではあったが家庭教師のお陰で彼女と友人という良い関係を築き上げられたのは感謝するばかりである。
意外にも彼女はそれなりに自分を気にかけてくれるし、彼女の性格からも考えて好感度は良さげ。
 しかし、彼女もまたモテた。
 彼女の性格から来るどこか棘のあるような性格で、笹川京子ほど告白はされていないようであったが、確実に競争率が高い。
しかも、彼女にはまた完璧な友人がいた。
 氷室悠。
これまた成績も良さげで運動神経は完璧だろう彼は更にモテていた。
飾り気のない大人びた性格で男らしい頼れる存在。
その上、黒髪はさらりとしており黒ブチ眼鏡の奥の瞳は黒々しくキレのある、しかし程好い鋭さ。眼鏡のお陰で尚もどこかミステリアスさを醸し出す彼は、今では山本や獄寺を撥ね除け、並盛中の男子・モテるランキング一位にまでのし上がっていた。
今ではなんの因果かあの雲雀さんにまで気に入られ、風紀委員長補佐という地位。
そんな彼と家の都合でとは言え、氷室悠は榊雪詠と同棲していた。
どう考えても勝ち目などあるはずがない。
「はぁ…」
なんて神様の贔屓だ、と言いたげに綱吉は再び溜め息を吐く。
 今の綱吉には、氷室悠が実は女だという事実を知る由も無い。

 
 
少年よ、悩み給え!



少年よ、苦悩せよ

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