「バカは風邪ひかねーはずなのにな」
受話器の向こうから一瞬だけ聞こえた聞き慣れた声は、皮肉染みた言葉を吐き捨てたリボーンにより虚しくも言葉が切られた。
悠の視線は堂々とソファーに座ったリボーンへと向けられ、ぱちくりと瞬きを繰り返される。
「どうしたんだ?」
「へなちょこが熱を出したらしい」
また鍛え直してやろうかと恐ろしい言葉を呟いたリボーンに苦笑をもらした悠は淹れたてのコーヒーをリボーンへ差し出した。
「サンキュー」
コーヒーの好みが合う2人はこのように一緒にお茶をすることが多い。
悠の淹れるコーヒーにリボーンが一度も文句を言わないことから余程好みが似ていることが窺えた。と言っても、悠はコーヒーを自分から進んで淹れるわけでなく、家に押し掛けて来るリボーンに悠が渋々淹れることが日常と化してしまったのだ。
今ではリボーン専用のカップまで家にある始末だ。ちなみに言うと雪詠が選んだカップである。どうやらそちらもお気に召したらしい。
「ん、やっぱオメーの淹れるコーヒーはうめぇな」
「…どうも」
この会話もすでに日常と化していたものだったりする。悠は静かに溜め息をつき、コーヒーを口にした。
「…で、ディーノさんが熱を出したんだっけ?」
「らしいな。こっちに滞在してる間にかかっちまったらしい」
今はロマーリオあたりが看病してんじゃねーか?とリボーンの言葉に悠は相槌を打つ。
お見舞いにでも行こうかな、と思考を巡らせた悠に気付いてかリボーンはあっさりと滞在場所を言葉にした。
こうして悠がディーノのお見舞いに行くことが決定したのである。
 
***
 
「と、言ってもなぁ」
悠はシンプルにも彩られた花束を手に玄関の前にいた。
熱ならディーノは辛いはず。こんなときにお邪魔しても悪いのではと今さらその事実に気が付いた悠はチャイムのボタンを押そうか押すまいか迷っていた。
「…いや、ディーノさんが熱ってことは部下の誰かがいる、よな」
だったら花束だけ渡しお大事にとお伝えくださいと言えば良いじゃないか。悠は静かに頷き、チャイムへと指を伸ばした。
ピンポーンと部屋の中から聞こえてくる音の後に、ぺたぺたと廊下を歩く音が聞こえる。ゆっくりと開けられた戸を確認した悠が挨拶をしようとしたところで思わず声を上げた。
「ディーノさん!?」
そこにいたのは部下の誰でもなく顔を真っ赤にし、額に熱さまシートを貼ったディーノがいたのだから仕方がない。
「よー、どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないです!お邪魔します!!」
慌てて部屋に上がり込んだ悠が寝室は!?と声を上げる。普段滅多に声を上げない悠に驚いてかディーノは目を丸くしながらもあっちと指を指した。
その言葉に寝ててください!とディーノの背をぐいぐい押し寝床に押しやった悠は台所へと行き、冷凍庫を開けた。
冷凍庫にはお目当ての物であった熱さまシートがあり、それを手に悠は立ち上がった。
手短にあったコップに水を注いだ悠はディーノの元へと駆け足で戻る。
ロマーリオさん達は!?との質問に買い物に行くって言ってたと伝えれば悠は少々呆れたように溜め息をついた。
水の入ったコップを差し出し、水分は取らないと駄目ですよと軽く注意した悠は熱さまシートをディーノの額に貼る準備を始める。
そんな姿にディーノは思わず奥さんみたいだな、と口にしようとして止めた。
ちょっとだけ熱出して良かった、だなんて言ったら悠は呆れるだろうなぁと内心呟き、その言葉と一緒に水を飲み込んだ。
額に貼られる真新しい冷たさとちゃんと休んでてくださいねとの悠の声。
へらりと笑みを浮かべ頷いたディーノは布団に潜り込み、ゆっくりと目を閉じるのだった。

 
 
その後、帰宅したロマーリオがぺこぺこと悠に頭を下げるのだった。



風邪ひきディーノ

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