しとしと。
そんな可愛らしい音ならどれだけ良かっただろうと悠は雨の止みそうもない空を睨み付けるように見上げた。
外は土砂降りという言葉がぴったりなくらい降っており、濡れて帰ること以外に方法はない。朝見た天気予報ではこんな予報は言っていなかったし、なにより先ほどまでは降っていなかったのだ。
つまり、本当に当然降りだした雨ということだ。
時刻は17時48分。こんな時間帯にわざわざ雪詠を呼びつけ、一緒に帰ることは気が引ける。
重々しく溜め息をついた悠は鞄をしっかりと肩にかけた。

「ん?氷室?」
コンコンと靴の先を地面で叩き、履きなおしていた悠に後ろから声がかけられた。
「…山本。」
よっ、と右手をピンと立てた山本はいつもの笑みを悠へと向けていた。
「帰りか?」
「あぁ。でも、傘忘れちゃってさ」
そう言って苦笑する悠に山本は外へと視線を向け、災難だなと同じように苦笑して見せた。
「オレ、さっきまで部活やってたんだけどよ、今日はもう無理だから帰ることになってなー」
「ま、この雨じゃあな…」
「下校時刻近かったし、別に良いけどよー」
明日晴れるかなー
そう言って土砂降りの雨空を見上げる山本に悠は溜め息混じりにさぁな、と答えた。
「それじゃ、俺行くよ」
「ん?氷室傘忘れたんだろ?」
「走って帰る」
「この土砂降りの中をか!?ちょっと待って!」
下駄箱から動こうとした悠を引き止めた山本は慌てて鞄を漁り出す。
お目当ての品を見つけたらしい山本はそれを広げた。
「よし!氷室、入れ!」
「…は?」
訝しげに眉を潜めた悠に山本は首を傾げる。
「…男2人で1つの傘はねぇだろ」
「まあまあ!それに氷室も濡れて帰んのは嫌だろ?」
「…まあ」
「つーことで決定!」
黒の折り畳み傘を片手にへらりと笑みを浮かべた山本に悠は思わず浅く溜め息を付いた。
「…本当に良いのか?」
「おう!」
山本の言葉につられて悠は山本の隣に並んだ。
土砂降りの雨はまだ、止みそうにない。

 
 
氷室ってこんな小さかったか?と首を傾げる山本君。



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