act.15
走れ!
「それでは、幸村・高野ペア対跡部・白取ペアの試合を始めます!」
なんなんだこのギャラリーの多さは。
黄色い声援に混じり、野太い声援が新鮮である。あ、いっとくけど私にじゃないよ。どうやら白取さんのファンらしい。彼女もどこぞの財閥のお嬢様だとか。それにあのスタイル、でるとこでてひっこむところはひっこむ。同じ女でも羨ましい、ぎりぃ………。
「俺は律のほうが断然可愛いよ」
「あー、はいはい。ほら、サーブ精市からだよ」
慣れたとはいえ、人の心を読まないで欲しい。いつかプライバシーの侵害で訴えてやる。
コールが鳴った。
地面を蹴りボールを追う。
「へぇ、ただの素人てわけじゃなさそうだな」
「そりゃどーもっ!」
バシュッ!
「ラリー中に喋るひまがあるとは余裕なんですね」
私の打球でポイントが決まる。
ポイントが決まる瞬間の爽快感はたまらないね!!
精市と目が合えばウインクが返ってきた。いや、今そういうのいらないから。
短期間とはいえ練習してきたけど、あまりにも彼らと差がありすぎる。ラリーの押収となると技術もだけど、体力的にきつい。現に私だけが凄い量の汗をかいている。それが跡部くんにはわかってるのだろう、ひたすらラリーが続く。長期戦に持ち込むつもりだ。
「跡部さん性格悪いっていわれません?」
「あーん、人の戦略にけちつける暇なんかあるのか」
「っ!」
しまった!打球に押されてロブがあがる。目の前には宙に飛ぶ跡部。
「破滅へのロンド!」
グリップにボールがあたり、ラケットが手から弾かれる。信じられないことにボールはまた宙に上がった。二度目のスマッシュが打たれることは容易に理解できた。
「ゆ、幸村・高野ペア30-15!」
審判の声で我にかえる。
「俺がいるのを忘れてもらっちゃ困るな」
精市のジャージが風ではためく。あの一瞬で私の元まできて、スマッシュを返した精市のレベルの高さにただ言葉がでなかった。
先ほど弾かれた私のラケットを精市から受けとる。
「大丈夫、ふたりで勝とう」
「もちろん!」
ひたすらボールを追う。
大丈夫、私はまだ走れる。動かない足を無理矢理奮い立たせる。私は勝ちたい!!
「律、マッチポイントだ」
「さっさと決めちゃおう」
視界が霞む。かなり体力を消耗してたみたい。必死でボールに食らいつく。
精市がフォローしてくれてるのがわかる。精市と、勝ちたいっ!
「うあっ」
はやる気持ちとは裏腹に体はついてきてくれない。足がもつれ、地面とこんにちはする。
「うおおおお!!」
ラケットを伸ばし、なんとかボールを打ち返す。
ボールは緩やかに弧を描き、ネットの上を、
越えた。
静かにボールが反対コートに落ちる。
ゲームセットの声で私は意識を手放した。
目を覚ますと医務室らしき場所にいた。ドアが空いて、精市が入ってくる。
「精市、試合は…」
今買ってきたであろうスポーツドリンクを受けとるて精市がピースをした。
「ほ、ほんと!!」
「ふふ、本当だよ。試合終わった瞬間に倒れたときは驚いたけどね」
「心配おかけしました……」
「今日はさっきの試合で最後だったし、ゆっくり休んで」
「ありがとう」
泣いても笑っても精市と一緒にテニスできるのは明日が最後。
「精市、明日も勝とうね」
やわらかく精市が笑った。
130320
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