act.10.5
感じてるのは、(幸村視点)
青学との練習試合当日。
テニスコートに向かう。
俺の後ろを仁王と歩く律は緊張してるようで、表情が少しこわばっている。
律がテニスコートを見て言葉を失う。
「ちょ、レベル高っ!
あたし素人だって忘れてない?」
律にたくさんの視線が注がれる。
時々聞こえてくる律への中傷。
本人は気にしてないようだが、俺は聞こえてくる方に満面の笑みを送っておいた。
「ふふ、大丈夫。
俺を信じて、律」
そういえば安心したようだった。
名前を呼ばれ、振り向けば手塚がいた。
「やあ、手塚。
久しぶりだね、今日はよろしく頼む。
律、こちら青学部長の手塚」
「ぶっ、部長おおおお!!
顧問の先生じゃないの?」
まわりから笑い声が聞こえてくる。
まったく世話がやける。
いや、そういうところも気に入っているんだけどね。
「ご、ごめんなさい!
あの凄く大人っぽくて、落ち着いてたから…」
「いつものことなので」
「あ、あたし手塚くん凄く素敵だと思います!
だから、えっとその……元気だしてください?」
男なら誰だって首かしげてこんなこと言われればドキッとする。
あの手塚でさえ赤面している。
律のことだ無意識にやってるんだからたちが悪い。
無意識だといえこれは許せないな。
「手塚、こちらは俺のパートナーの律」
「よろしくお願いします」
「はい」
わざと肩を抱き、自分の方へ彼女を引き寄せる。
律がぺこんと頭を下げて、手塚と握手をかわす。
律は準備しにみんなのところへと駆け出した。
「ねえ、手塚。
律は俺のだから手を出さないでね」
すれ違い様に手塚に少し注意する。
「手塚、顔色悪いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫だ……」
「くすっ、幸村はおもしろい子をペアにしたね」
ちっ、手塚より不二に釘をさすべきだったか。
立海のみんなが待つベンチに戻れば、程ほどにしろと柳に言われた。
俺の苦労を知らない律は丸井と一緒に弦一郎に説教されてる。あ、弦一郎のげんこつが落ちた。律の目のはしに涙がうっすら浮かぶ。
潤んだ目でにらめつけられた弦一郎が赤くなる。弦一郎の肩をつかみ、力をこめれば俺の言いたいことが伝わったみたい。
「幸村くんってあんな人だったか?」
「ふしゅ〜、あれくらいで情けね…ッ!」
ふふ、聞こえてるよ。
ストレッチやラリーなど準備を終えれば、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
「精市、地面が揺れてるっ…」
「揺れてるのは律自身だから」
未だガタガタ揺れてる律の手をとり、コートに入る。
相手越前たちか。
「あんた素人って本当?」
「うん、ど素人!」
「ふーん」
「ちょっとリョーマくん!
あの、すみません!」汗
「ふふ、大丈夫だよ。
よろしく頼む」
「は、はい!」
なんというか………
律にはもう少し教育した方が良さそうだね。
こっちに不利な情報を相手に渡す必要はないからね。
緊張した面持ちの律に一言声をかければ力が抜けたようだった。
初試合なのに律は思ったより動けてる。
うん、いい調子だね。
「律!」
「ハッ!」
パーン!
律のスマッシュがコートに決まる。
「へぇ、あんたやるじゃん」
「ありがとー」笑
振り向いた律と目があえば、まぶしいばかりの笑顔がむけられる。
試合の中でもどんどん進化していく律。
本当におもしろい人だよ。
ゲームセット 6-5 幸村・高野ペア
「ありがとうございました!」
「次は負けないよ」
「あたしたちだって負けないよ。ねっ、精市」
「もちろんさ」
「まだまだだね」
「もうリョーマくんってば……」
コートをでれば赤也がかけよってくる。
いつの間にかチームのみんなが集まる。
気づけば俺達の中心にはいつも律いるようになっていた。
残りは時間の限り試合をしたり、みんなの試合を観てすごした。
にしても青学は懲りないね。
俺が律から少し目を離せば待っていたとばかりに律と話そうとする。
悪い虫がつかないようにするのは大変だね。
「今日はありがとう」
「ああ。また、大会で会おう」
「楽しみにしてるよ」
「さあ、帰ろうか」
バスに乗りこむ。
みんないろいろと次の課題も明確になったね。
俺達も頑張らないと。
揺れるバスの中隣で眠る律の髪をなでる。
一緒に強くなろうか。
111117
▼