君は知っている(下鶴と藤丸)


中学生になった僕らはすぐ頭にコードを付けられた
何でもこれで勉強もスポーツも格段に上達するらしい

しかし僕は、僕だけは何も変わらなかった
勉強もスポーツも、小学校のときと何も変わらない

先生方は言った
『お前は出来が悪い、失敗作だと』
そうか 僕は失敗作だったのか
だから僕は杉森さんみたいにきっちりサッカーが出来ないし
改みたいにテクニックもないんだ

落ち込んでいたら先生方は
『でも大丈夫だこれでお前も優秀になる』
と言って僕にもう一本コードを付けてくれた
それからだ 僕はあまり考えることをしなくなった


改には『変わった』と言われた
何を言うんだ 変わったのは改の方だ
昔の改はよく笑ってよく泣いて、自分の感情に素直な子だった
なのに今は勝利に固執して、無我夢中でサッカーをしている
そんなの改らしくないよ

少し怒りながらそう言うと改は少しだけ優しそうに笑った
『ありがとう、ごめん』て
ああ良かった 改の優しいところは変わってなかった
僕は笑った






啓は変わった

入学してすぐ、啓だけが呼び出され暫くすると啓の頭のコードが増えていた
何でも啓だけ洗脳がかかりにくく、やむ無くコードを二本に増やしたそうだ
だがそのせいで唯でさえ感情の薄かった啓の表情は"無"になった
俺を和ませてくれていたあの柔らかな笑みは無くなっていた

教師達は『啓にはそのことは言うな』と言った
啓は自分が"無"になってしまったことを知らないと言うのだ
何てことだ 酷すぎる
啓は自分が今まで通り笑えていると思っているのだ
奴等はどこまで残酷なんだ
俺は悔しかった

だから俺は無我夢中でサッカーをした
奴等の命令に従い、奴等の為に働いた
そしたら啓を解放してもらおう、啓を転校させよう、そう思っていた

お前と久しぶりに帰るとき、何気なく
『変わった』と言ってみた
そしたら啓は『変わったのは改の方だ』と言った
啓は忘れてはいなかった
俺との思い出を、ちゃんと覚えていた
俺は嬉しかった

啓はちゃんと俺を見ていてくれた
『そんなの改らしくないよ』
その言葉が嬉しかった

『ありがとう、ごめん』
感謝の気持ちと懺悔
俺はお前を守れなかった
誰よりも綺麗で優しいお前を

今、お前は俺に笑いかけてくれているんだろうか?
俺には分からない

その時の啓の表情は相も変わらず"無"だったから