※現代学パロ
『なんで上手くいかないのかなぁ…』
大きなレンジから取り出したのは触れば火傷をしてしまいそうなほどの厚い鉄板。
そこに所狭しと並んでいるのは所謂クッキーと呼ばれるもので。
しかし呼ばれるもの、と称す分少々難があることがありお名前がため息をついているのはそれが原因だった。
少し表面を触ってみればへにゃりと歪む生地。
むむむと額に皺を寄せてまだ熱々の鉄板を濡れ布巾の敷いてある机に置く。
小さくじゅ、と音を立てた鉄板を見つめ頭を悩ませる姿。とりあえずキッチンミトンを外したらどうなのだろうか。
それも外さずへしゃげたクッキーと向かい合う。
キッチンは戦場だとはよく言ったものだ。
『おかしい…私はちゃんとレシピ通りに作ったはず…』
―ただ、隠し味に色々加えただけで。
不吉な言葉を付け足してお名前が1つ自分の作ったクッキーを手に取った。
「お前それがダメだって学習しろよな」
『はっ!?』
摘まんでいたクッキーが背後から現れた手の中に消える。
しかしその行動よりも、聞こえてきた声の方に驚いたお名前は素っ頓狂な声を上げてしまった。
現在両親が共働きに出ているこの家には自分しかいない筈だ。
それなのに家に入ってくるような人物。
お名前の頭の中にそのような人物は1人しかいなくて。
『ちょっとジュダル!また勝手に私の部屋から勝手に入ったでしょ!』
「窓開けてるお前が悪くね?」
『普通に考えて換気でしょ!100歩譲ってもアンタの為じゃないわよ!』
「カテ―こと言うなよ幼馴染だろ」
『…ジュダルあんたさ…それ言えば良いと思ってるでしょ』
長い黒髪おさげの男。
大きな欠伸と共にお名前の家のキッチンに現れたジュダルはお名前が幼き頃からの幼馴染だった。
今も隣の家に住んでいる彼は丁度隣り合っている2階のお名前の部屋の窓から侵入し、ここに現れている。
それが日常茶飯事ともいうか両親ですらそんなジュダルの存在を認めているのだから収集なんてついたものではない。
「だからよぉ…いい加減にレシピ通り作れよお名前」
『べ、別にいいでしょ私が作ってるんだから』
「まじぃ」
『知るか』
変な音を立ててジュダルの口に放り込まれたクッキーだったものはなんだかんだで咀嚼されて飲み下す辺りは意地の悪いと言うかなんというか。
『……だいたいなんでジュダルはわざわざ食べに来るのさ』
お名前は我ながらお世辞にも美味しいとは言えないクッキーを口に放り込んだ。
不味い。心の中で思いながらそんなクッキーをもう1つ手に取ったジュダルを見やる。
「お前の作るもん食えるのなんて俺ぐらいだろ」
まじぃ。
また悪態を付くくせにまた1つ失敗作のそれを手に取っていくジュダル。
『…だから、まずいなら食べなきゃいいじゃん』
腹が立つから、次はレシピ通りに作ってやろうか。
でも結局、お名前は隠し味に何かを入れてしまうのだろう。
少しでも美味しくしたいと言うと美味しいものを食べてもらおうという気持ちはどこかにあるのだから。
なんだかんだ言っても、何かを作っていたらわざわざ家に足を運んでくる君へ。
君専属パティシエ
(次はアップルパイな。ワンホール)
(…全部食べる気?)
(ったりめーだろ)
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