本格的に自分でも魔法の勉強をしよう、とこの前スフィントスくんに取ってもらった本を机に置き重たい表紙を開いたのは昨日の夜遅く。
案の定と言うか、なんというか。

難しい文字の羅列。
最初はやる気と根性、そして本の重みを感じることで眠気を頑張って吹き飛ばしていた。
でもやはり私には難解な高等魔法の命令式を理解するには時間もかかるし頭も使う。
それがどういうことを指し示すか、もうお分かりでしょう。

気付いた時には日は昇り、私の傍らには昨日の夜私が淹れた飲みかけのココア。
力を失った手の先に開かれたままの分厚い本。


『……寝坊だぁ…!』


机に突っ伏したまま眠っていたために髪の毛の至る所に付いた変な寝癖を含め、その日の朝は色々とてんやわんやだった。
おかげでお弁当を作ることもできず朝ごはんも食べれず仕舞い。

そして何のために勉強したのか、授業の内容が全く頭に入って来なくて怒られる始末。


「どうしたんだお名前。調子ワリーな」


休み時間にトン、とスフィントスくんから叩かれた方から力が抜ける。


『………お腹すいた…』

「はぁ?」


スフィントスくんの隣にいたティトスくんも思わず声をあげそうになったらしい、私の方を見て変な顔をしているのが見えた。
でも正直今の私には周りなどどうでもいい。

お腹すいた、それに尽きる。


「朝食は食べてないのかい?」
『食べ損ねたの…』

「お名前が飯食わないなんてどうかしたのか」
『昨日は遅くまで本読んでたら…寝坊して…』
「…ということはお名前、もしかしてお昼は」

『ごめんね…作ってる時間なかった…』


2人のお昼ご飯を担っている私がこうなってしまった以上道連れになっちゃった訳なんだけども、ひどく申し訳ない。

項垂れた私のお腹が見事に悲鳴をあげる。
あぁ、せめてダイエットだって封印していたお菓子を持ってくるべきだった。
というか、私が考えるべきは自分より2人の事なんだけどもごめんね私ご飯に関してだけは譲れないの。


「僕たちの事はいいけど、お名前が倒れたら元も子もないよ」
「そうだな。あー…なら今日は俺がなんか奢るぜ?」

『いいの?』
「じゃあ僕の分も頼んだからね」
「なんでお前のもなんだよ」
「だって必然的に僕もお昼がないんだから当然じゃないか」

『…ごめんなさい』
「だーもう!お名前のせいじゃねぇっての!」


でもきっとなんだかんだでスフィントスくんは私とティトスくんの2人分奢ってくれるんだと思うなぁ。
あんまり力の入らない私の手をスフィントスくんがパッと取ってすたすたと歩き出す。


「その代り、明日の弁当は特別豪勢にしろよな」
『うん!明日はちゃんと早起きするね』

「卵は出汁巻きだよ」
「俺は塩派だ」
「僕に言ってどうするんだい」

『2人の分どっちも作るからね』


一触即発な雰囲気をまた和ませる様に私は反対の手でティトス君の手を取った。
これは明日のお弁当頑張らないとね。

勉強はほどほどにしないと美味しいご飯が勿体ないもん。
でもこうして手を取り合えるならそれでもいいやって思っちゃう私がいるのは駄目なことでしょうか?




寝坊助さんのお弁当

(おいティトスなにお前一番高いモン頼んでんだ!)
(何って…美味しそうだからに決まってるじゃないか)
(わぁほんとだ、美味しそう)
(一口食べるかい?)
(お前らぁぁ!)


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この3人はなんだかんだでお手手つないで横並びな関係が好きです

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