はぁ、と小さくため息を付いても変わったことといえば新しく小さな埃が待ったぐらい。

余計に息苦しくなった部屋でけほりと咳をしながら手元にある分厚い本の背表紙を確認する。
綴られた文字の羅列を確認し決められた順番に並べて行く簡単な雑用。
本当ならば今頃美味しいご飯を食べていた頃だろうに何してるんだろ、とお名前はもう一度ため息をついた。


「ため息をついたら幸せが逃げちゃうよ?」

『お昼が食べられない時点で大分逃げてるよアラジンくん…』


打って変わって隣で楽しそうに本を積むアラジンは実は事の発端の元凶である。
魔法においては優秀な成績を収める彼の欠点。女癖の悪さが祟っての事であり、お名前は本来何も悪くないのだ。


『なんで教官の胸に飛び込んじゃうのかなぁ…』
「いやぁ…何だか呼ばれてる様な気がして…」

『それはないと思うよ。絶対』


アラジンの側にいたというだけで飛んだとばっちりである。
見事に罰として言い渡された使われなくなった書庫の整理はなかなか過酷なもので、始めたのは半刻前だというのに立ちはだかる本たちに終わらせる気はないらしい。
作業自体は単純でありこう言ったことが嫌いではないお名前は最初こそ張り切ってやっていたものの今では腹の虫が文句を言って来る始末。
これはお昼抜きを覚悟しなければならないとお名前が絶望にも似た感覚を覚える中アラジンは鼻歌すら歌いながら作業をして行く。


『アラジンくんお腹空かないの…?』

「減ってはいるけど、なんとか大丈夫かな!」


なぜか清々しくも見える笑顔は先ほどの教官の胸で何かを補給したのであろう。
その清々しい笑顔に妙に腹が立つ。
アラジンに一方的に巻き込まれたお名前には百害あって一理なしだ。
とにかく今は悲鳴すら上げかねない空腹をどうにかして欲しい。
あぁ救世主でも現れてくれないかなぁと棚にしまう本を持って立ち上がればバン、という音と共に薄暗い書庫に光が刺した。


「「お名前!」」


姿を確認する前に呼ばれた自分の名に思わずお名前は持っていた本を取り落とす。


『ティ、ティトスくんにスフィントスくん』
「あれ?2人共、お昼を食べに行ったんじゃないのかい?」

「食べに行くも何も」
「俺の昼飯はお名前が持ってんだよ」
「僕のもね」

『…あ』


そういえば自分のカバンの中に入っているのは自分の弁当箱だけではなかった。
朝いつもより早く起きて作らなければいけない使命感の元作るお弁当は全部で3つ。

その内2つが自分のモノでないのは置いておき、確実にこの2人に被害が出ていることは明らかだ。


「なんだ、じゃあ2人はアラジンからの呼び方を迎えに来たんだね」

「そうだよ。ほらお名前、行くぞ」
『え、え、まだ整理終わってないんだけど…』
「へぇ…僕を放っておく気かい?」
『そ、そうじゃなくって…!』


右手をティトスに、左手をスフィントスに。
まるで連行されるかのように連れて行かれかけるお名前が待ったをかけるが2人は止まる気もないようだった。

しかし床にはまだまだ散らばった本たち。
これを整頓しなければまた教官のお怒りを買うことになるだろう。


「そんなの後でやればいいだろ。アラジンも行くぞ」
「僕もいいのかい?」
「あぁ」

『…アラジンくんまで?』

「しょうがないから手伝ってあげるよ」
「だから行くぞ。腹減った」
「わーい!」


拘束された右手左手。
そして押された背中にお名前が抗う術などなかった。

こうなってしまえばどうやら早く胃袋を満足させて続きを再開する他ないようだ。

お名前は今日のお弁当何にしたっけと思い出しつつ、既にもう頭を食事へと移りかえてしまった。
既に本の事は後の話。
しかしお昼を堪能しすぎて本の整理を忘れかけるのはそれまた半刻後の話。




皆で食べるご飯は美味しいよね

(で、なんで3つとも同じおかずなんだい?)
(え?だ、ダメだった?)
(文句言うなよお前)
(美味しそうじゃないか)

(えへへ、いただきまーす)

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