いただきます、と一人で手を合わせてお弁当に向き合ったのは久しぶり。
最近は嬉し恥ずかしながらもティトスくんとスフィントスが大抵一緒にお昼ご飯を囲んでいたから。
というか、私みたいな平凡な女がなぜあんな優等生の方々とご一緒しているのだろうか。
まぁ優等生って言っても同じ生徒だし楽しいから全然かまわないんだけど。
今日の卵焼きは上手くできた。
自画自賛しながら口に運ぶ卵焼きはふわふわで口の中に広がっていく。
『美味しいー』
お弁当箱にはもう1つの卵焼き。
その卵焼きは砂糖を入れて少し甘めに作った方だ。
どちらかというと甘党な私はそっちを食べるのを楽しみにしていた。
2つのうちどっちを先に食べようか悩んだ結果、好きなものを最後に残すという典型的な型に嵌ってしまったがまぁいいとしよう。
『いっただきまー……「いただきます」
『あ』
私が持っていた卵焼きを掴んだお箸が、なぜか向かう方向を私の口から変える。
なぜかと言っても理由は明確。
『もうティトスくん…それ私の卵焼き』
「別に減るものでもないでしょ?」
『卵焼きは減るよ…』
「また作ればいいじゃないか」
もぐもぐと口を咀嚼させながら隣の席に座るのは噂の優等生ティトスくん。
『食べながら喋ったらダメって言ったのに』
「喋りかけてきたのはお名前だからね」
今度は卵焼きを飲み込んでから。
あぁ…楽しみにしてた私の卵焼きが…。
悠々と隣に座った彼の胃袋に入ってしまった卵焼きはもう戻ってこない。
これはもう明日も作らないといけないなぁなんて思いながら寂しくなったお弁当箱を見やる。
「…少し甘くない?この卵焼き」
『だって甘くしたもん』
「僕は出汁巻き卵がいいかな」
『あーいいよね!出汁巻き卵も』
ティトスくんもお料理とかするのかなー
それだったらまたできるお話も増えるのになー
とか呑気に思っていたら、ティトスくんの私よりも一段と細い気がする指がスッと私のお弁当箱を指した。
『?たこさんウインナー?』
「…違う」
『え?かにさんの方がよかった?』
「……僕がそんなに物乞いをするような人に見えてるのかい」
『違うの?』
首を傾げたらはぁ、とため息をつかれてしまった。
私には優等生さんの頭の構造が理解できないみたいですごめんなさい。
「明日」
『うん?』
「明日僕の分のお弁当作って来てよね」
『………え?』
「あ、卵焼きは出汁巻きだから」
『…え、え?』
「よろしく」
まだ食べ終わらない私のお弁当箱の中身はそのままに、ティトスくんは綺麗な顔で笑顔を浮かべて去って行った。
(そういえばティトスくん、先生に呼ばれてたっけ)
私の頭の中の整理と食事タイムは終わってない。
ティトスくんの背中を見つめながら私のお弁当は冷めてしまっていた。
魔法だけじゃなくて、彼は私のお弁当時間を削る天才でもあるらしい。
貴方にお弁当でも
(おい…お前なんでお名前の弁当食ってんだよ)
(頼んだからさ)
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