※悲恋
※シャルヤム要素あり
貴方の姿を瞳に映すことは至極でありました。
ただ、貴方の瞳に映るのは私ではなかった。
私を通じてあの方の面影を見ているだけだと気付いたのは最近の話ではないけれど。
わかっていた。
貴方の気持ちを分かっていて、私は貴方に騙されたフリをする、ズルい女。
だから、きっと涙を流すことすら許されないのですね。
コンコン
『どなたですか?』
「……俺だ」
いつもの辺りに笑顔を振りまくような声ではなく、少し張りつめた声。
毎回私にはその声を聞かせてくれる。
いいえ、その声しか聞かせてくれないから。
『シャルルカン様、お入りください』
「…いつもワリィな、お名前」
『構いません。私などでよければいつでもいらして……っ』
最後の言葉を紡ぐ前に部屋のドアが閉まり、掻き抱かれる私の体。
剥き出しになった逞しい腕が愛おしい。
私はシャルルカン様を愛していたというのに。
今きっと貴方の瞳に映っているのは私ではない。
長い水色の髪を掬い上げては手がそれをすり抜けていく。
その髪に貴方は誰を思い描いているのですか?
初めは代わりでもよかった。
ただ、人はどんどんと貪欲になっていくと言うことに気付いたのは案外すぐのことだった。
「……ヤムライハ…」
ズキン、と痛みが胸に突き刺さる。
今こうしてシャルルカン様の腕に抱かれている事ですらおこがましいと言うのに、私はなんて浅ましい女なのだろう。
いつかこの腕を失ったら。
私は、そしてこの人は、どうなってしまうのだろうか。
考えたくもない、しかしそう遠くない未来。
嫌ですと言えればどれだけ楽だっただろう。
もう私は逃げられない。
『…シャルルカン様』
「なんだ?」
『…いいえ、なんでもありません』
「…そうか…」
ただ貴方は、私を優しく抱きしめる。
どうしてそんなに優しいの。
優しくしないで。
それでもこの腕が好きで好きでたまらない。
あぁ、浅ましい。
私の愛する人が愛した人は、きらきらと輝く魔法のように美しい水色。
それはまるで、それこそヤムライハ様の使う魔法のように。
私の愛する人が私に見るのは、あくまでもその面影。
水色の髪はきっと、涙に悲しみの色づいた悲しい色。
似ても似つかないその色を、貴方はどう映すのですか。
貴方も恋は盲目だと、気付かないフリをして。
私も貴方の気持ちに、気付かないフリをして。
なんて馬鹿げた道化だろう。
それでも抜け出せないこの水の底のようなふわふわとした感覚に包まれて、私たちは溺れていく。
決して報われることのない思いに
そして、決して叶う事のない夢に。
水色に溺れる刹那
(全ては飲み込まれる)