心と体が成長するにつれて、人は変わっていくものだろうか。


『ほんっとシャルってば変わんない!なんでそんな何も考えずに突っ込むの!?』
「うるせーよ!名前もその可愛くない口は変わんねーな!」


否。そんなことはないんじゃないかと私は目の前にいる幼馴染を見て思う。
その腕には褐色の彼の肌には似合わない白い包帯。
先日ちょっとした事件に巻き込まれたがシャルが作って来た新たな傷痕である。
それを男の勲章だと言い張るのも女の私からしたら馬鹿げているようにも思う。


『治療する私の身にもなってよ』

「それがお前の仕事だろ」
『怪我の治療なんて極力しない方がいいに決まってるでしょ!』


自分でも可愛くないと本当に思うけれど、開いた口から出る言葉は殆ど反射的なもの。
だってしょうがないじゃない。シャルが好きで心配なんだから。
その一言さえ言えれば、シャルの言う"可愛い口"になるのだろうか。まぁ、なれる気はしないが。


「昔はもうちょっと素直だったのにな!」
『シャルだって!』


大人になるにつれて素直になれないのは、きっと色々な感情を知ってしまったから。
分かってはいるけど、夜にそういうお店に足を運ぶシャルを見るのも苦しくて。
それでもそんな気持ちを伝えられないから悪態をついてしまう。

我ながら可愛くない。


『…なによ、シャルのバカ』


張り上げるような声じゃなくて、絞り出したように小さな声しか出ない。


「ちょ、名前なんで泣いてんだよ!?」
『うっさい、シャルのばかぁ…』


ぼろぼろとびっくりするぐらい零れてくる涙。
私ってシャルのことでこんな素直に泣けるんだなんて少し他人事みたいに思いながら。

うろたえているシャルの包帯の巻かれた腕が私にスッと伸びてくる。


「…名前らしくねーぞ。泣くな」

『……なんでそんな偉そうなの』
「俺が俺だから?」
『今怪我人のクセに』


強引に拭われた私の涙はシャルの指に水気を残した。

やっぱり私の口から零れるのは悪態ばっかりで。
でもそれが心地いいようなそんな気もする。


「…わざと怪我してでも会いに来たいからに決まってんだろ」
『………は?』

「だから!昔みたいにこうして言い合ってんのが落ち着くんだよ!」


それくらいわかれバカ、と
瞼に静かに落ちてきた唇から紡がれた言葉。

今度は私がバカと言われてしまった。
シャルは変わってなかった。
私も変わってなかった。
ただ昔と同じようにバカなことで言い争いをしているこの関係が好きで。

それ以上に理由なんていらなかったのかもしれない。


『…シャル』
「んだよ」

『好き』

「…俺もだ」





思い出のキス
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