見てわかる程の緊張を顔に張り付けて、私の両肩を掴んだアリババを見つめて早5分。
そんな私も緊張が表に出ている…と思う。
なんせ互いに異性と付き合うのが初めての経験で手を繋ぐのにもかなりの時間を要したものだ。

そんな私たちが今まさに、恋人同士なら通るであろうステップの1つを踏もうとしている。


「ほ、ホントにいいのか…?」
『う…うん』


改めて聞かれたら恥ずかしいからこうして顔を向き合わせるのがちょっと恥ずかしくなってくる。
こういう時は雰囲気を大事にするためにゆっくりとしていくのか、それとも勢いでいってしまった方がいいのか。
恋愛初心者は皆こうも恥ずかしい思いをして階段を上っていくのだろうか。

とは言っても、自分の事と言うのは他とは比べようもないからわからないのだけれど。


「名前…」


肩に乗ったアリババの手に力が入ったのがわかった。
あぁ、私もついに羨望してきた階段を上ることになってしまうのか。

きゅっと瞳を閉じてアリババのそれを待つ。
自分の唇がカサついてないかだとか変な顔してないかだとか、今になって気になることが多すぎる。
口の中に溜まった唾を飲み下し、これから起こるであろうことに息を飲んだ。

もしも今目を開けたら目の前にも変な顔をしたアリババがいるのだろうか。
考えたら面白くて笑いそうになった。

距離が近付いてくるのがなんとなくわかる。
私の心音が伝わってしまいそうで怖い。
でもそれすらも緊張が飲み込んでしまいそうで。





「アリババくーん!!!」





「っうぉあ!?」


ゴチン


『いっ…!は…っ!?』
「〜〜っ〜!!」



大きな音を立てて現れたアラジンに、ロマンチックな雰囲気は全てどこかへ飛んで行った。
そして私たちから奏でられてしまった音はまさかまさかの歯と歯が思いっきりぶつかる音で。

アリババと顔を見合わせて目をばちくりとさせている様に、アラジンは疑問符を浮かべて邪魔しちゃったかな?とだけ言い捨てて扉を閉めた。



『い……今…』

「…ぶつかった、…よな…」
『う、うん…』



痛い。沈黙が痛い。

お世辞にもキスとカウントしていいのかわからない先程の事故は何と言ったらいいのだろう。
動揺やらなにやらが混濁してどうしていいのか分からず、アリババの顔が見れない。
同じようにアリババも何も言葉を発さず、顔をうつむけているのが視界に映る。

でもアリババは急に自分の髪をわしゃわしゃと掻き上げお腹の底から声を張り上げた。


「…あー!もういい、色々考えんのやめ!」

『あ…?アリバ…ばっ』


また両肩を掴まれ、近付いてきた唇は控えめに私のそれに触れた。

飲み込まれた言葉は吐き出されず。
ただ、時にぶつかる歯に彼も私同様、恋愛初心者であることを思い出させて声が漏れそうになる。
ゆっくり離れて行った互いの唇。
真っ赤になっているアリババに、同じく真っ赤であろう私は笑ってしまった。


「…何笑ってんだよ」

『別に?アリババのキスがへたくそだなぁって思っただけ』

「わ、悪かったな…っ!」


ムキになって反撃してこようとするアリババの口を私から塞いでやる。
こうしたらきっとアリババは何も言って来ないだろうから。



『これからいっぱい、一緒に練習すればいいんじゃない?』



恋愛初心者の、キスのはじめ方。






下手くそなキス
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