自分から過剰に与えられる愛を求めてしまうのは女のサガというものなのだろうか。
辺りの人と比べることのできない"気持ち"というものは厄介なもので、現に今も私の頭を悩ませている。

私が彼を求め過ぎなのか、彼が私を求めなさすぎなのか。

どちらかだと思うのに答えは簡単には出ない。


『…マスルールくん』
「なんスか」

『……いや、なんでもない』


だって彼はなかなか思いを口にしないから。
先程までモルジアナちゃんの相手をしていたのだろうか、微かに滲む汗をたくましい腕で拭っている姿に思わず私はドキッとしてしまう。
なんでもないなんて言って、後ろ手に隠してあったタオルをぎゅっと握った。

マスルールくんはかっこいい。
彼がそういう事に無関心だからかあまり浮ついた話は聞かないが実際の話はどうなのだろう。


「何か用があって来たんじゃないんですか」
『え!?えー…っと、その、ほら!ジャーファルさん!ジャーファルさんに3人の修行の経過を聞いて来いって言われてて!』
「ジャーファルさんに?」
『う、うん!修行は順調なの?』

「…まぁ」

少し高い気温のせいか、拭ってもまたじわりと滲んでくる汗が光る。
あ、と思わず声を上げたのと同時に後ろ手の手が前に出てきてしまった。

気付いた時にはマスルールくんの視線には私が持っていたタオル。
無言で見つめてくるのが逆に辛い。せ、せめて何か言って欲しい。


『よ、よかったら使って?』

「…それ、俺にっスか」
『………はい』


返ってきた問いかけに、なぜか敬語になってしまった。
ちょっと恥ずかしくて俯けた顔。
きっと真顔で私か私の持っているタオルを見つめていることだろう。

私の手からタオルが離れていく。
マスルールくんが汗を拭っているのを見届け、そのタオルをまた回収して洗濯しなければ。
正直、私は彼がタオルを使ってくれたことがまず嬉しくて。
口元にやけてないかな、なんて思っていたら不意に伸びてくる先程まで汗を拭っていたたくましい腕。


『…マスルールくん?』

「名前さん、わざわざこれ渡しに来る為だけに来てくれたんスか」
『だ、だからジャーファルさんに…』
「嘘ですよね」


―バレてる。

マスルールくんは自分はあまり感情を表面に出さないけれど他人の表情はよく見ているように思う。
私より一回り二回りぐらい太い腕が私の腕を拘束して離さない。
反らせない視線がもどかしくて、じっと視線が絡み合う。



「…俺、若干期待してるんで」


『――え』



グイッと引っ張られ引き寄せられた私の体。
落ちてきた少し熱を持った唇に、私は理解もままならぬまま。

タオルを私の頭に被せ、背中を向けて歩いて行ったマスルールくんの姿を見つめていた。

言葉でも行動でも、まさかこんな唐突にとは思ってなかった上に彼が攫って行った私のファーストキス。
これは本気を出さなきゃダメかなぁと。
真っ赤になった顔をマスルールくんの香りが残るタオルで必死に顔を隠しながら私は奪われた唇に手を当てた。




気紛れなキス
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