貴方に愛されると感じている時

傍にいる温もりを感じる時。
抱きしめられた腕を抱きしめ返した時。
愛おしそうに髪を掬う貴方の笑顔を見た時。
装飾の多く逞しい貴方の手と指が絡まった時。

挙げて行けばきりがない、貴方に愛されている要素。
そしてこれは私が貴方を愛しているということでもあって。

幸せな時と言うものは過ぎた後に気付いたりすることが多い気がする。
悲しいことはリアルタイムで心に響くというのに、どうして幸せなことは後から感じてくるのだろう。


「何を笑っているんだ?」
『ふふ、シンドバッド様が私にアピールしていた昔の事を』
「…忘れてくれ、昔の記憶は格好がつかん」

『嫌です』


昔の事なのに記憶に新しい貴方との記憶は鮮明に頭に蘇る。
ばつが悪そうな表情をするシンドバッド様の表情はとても珍しいものではないだろうか。
そんな私だけが知っているような一面にまた加速する愛おしさ。


『シンドバッド様』
「…なんだ、名前?」
『もう…拗ねないでください』
「拗ねてはいない」


えい、と頬を突けば力を入れた分だけへこむ頬。
拗ねてないと否定する辺りが実に子供っぽい気がする。

また思わず漏らした笑みにシンドバッド様はご機嫌を斜めにされたようで。


『そんなんだから可愛いんですよ』

「…名前の方が可愛い」
『お世辞は言っても何も出ませんよ』
「世辞を言う必要もない仲だろう」

『そうですね』


わかっていて返事をする私は少し意地悪だったかもしれない。
それでもこの会話の1つ1つが愛おしい。

シンドバッド様のお傍にいることができる幸せ。言葉が交わせる幸せ。
幸せの数は数えても数えきれないほどにある。


『ねぇシンドバッド様?』

「今度はなんだ?」


ちょっと眉間に寄った皺に顔を寄せてちゅっと額にキスを落とす。
ターバンの飾りが私の額に擦れて少しくすぐったかったけれど、それもまた恋の魔法で愛おしくなる。
この恋の魔法はヤムライハ様にも、アラジンくんにも解くことはできないだろう。


「……今日はやけに大胆だな」
『幸せは感じた時に表に出したほうがいいですから』
「なら俺も、素直になるとしようか?」


欲望に忠実な、されど何よりも厄介で、そして何よりも幸せで。
そんな誰にも解けない魔法を解くことができるのはただ1人しかいない。

言葉を紡ぐことができなくなった私の唇に触れている貴方の熱が、私を離さないから。



『私…今この時が一番幸せです』



貴方と永遠を紡ぐために、愛する貴方に何度でも口付けを。





もう一度キスを
(そして私に、惜しみない愛を)

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