シンドリアには有能な政務官がいる。
それもとても有名な政務官。人数は2人。


『シンドバッドさーん!』
「名前、いましたか?」
『まだ見つからなくて…お兄ちゃんの方は?』
「こっちもです」


廊下でばったり出くわしたジャーファルと名前。
並んでいてサラリと流れる銀髪はそれはそれは類似している。
同じ文官服、同じクーフィーヤ。
背格好や髪の長さは違えど喋る物腰や纏う雰囲気。

挙げていけば類似点など沢山あるこの兄妹は、今やシンドリアには欠かせない存在となっていた。


「まだ終わってない書類が山ほどあるというのに…」

『とりあえず半分ぐらいはシンドバッドさんの判子だけで終わるようにしといたけど…』
「ありがとうございます。まったく…」


頭を抱えてため息を付いたジャーファルに名前がシワの寄った眉間をつつく。


『シンドバッドさんも悪気あってやってるんじゃないんだし』

「…そうは言っても貯め過ぎはいささかよろしくないですね…」
『お兄ちゃんのじん麻疹出るより全然いいよ』
「…そうなんですけど…」


仕事が趣味と自負するジャーファルは仕事がないとじん麻疹が出る。

しかしシンドバッドがこうして適度にサボるせいでシンドリアの政務官に安息などない。
つまりその事実を知る者は少ない。

名前はジャーファルの体が心配だが、仕事があってもなくてもどうにかなるのなら怒鳴り散らしてでも感情を露にしてくれる兄が好きだった。
暗殺者の顔をするジャーファルを見ているのはいつになっても慣れないのだから。


「名前もいてくれますし楽って言えば楽なんですが…どうにかなりませんかね」
『あはは、どうにもならないだろうね』


軽くシンドバッドを探すことを諦め、出来る範囲の仕事でもこなすかと足を並べて廊下を歩く。


『最終兵器マスルールさん使う?』
「いえ、いいでしょう」
『そう?』
「仕事は名前と私で追い込みましょう。どうせシンには働いて貰わないとダメですし」

『…自分で首絞めちゃってるね…シンドバッドさん…』
「自業自得です」


そう言ってジャーファルはふっと笑う。
今までのジャーファルだったら絶対にこんな風に笑わなかっただろうに、と名前は改めて思った。
シンドバッドの影響力は本当に凄い。

名前も元はこんな性格ではなかったというのに。
今では2人揃ってすっかりシンドリアの掛け替えのない政務官だ。


『お兄ちゃん』
「なんですか?」

『んー、なんでもない』


名前とジャーファルはシンドリアの有名な政務官兄妹。
今日も今日とてシンドリアの為に働きます。





答えはシンプル

(シンさん捕まえてきました)
(ありがとうございますマスルールさん!)

(…名前…君の差し金か…)
(いいえ、私ですよシン)

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