一国の姫だなんて誰が羨ましがるのだろうか。
それはお姫様というものに思いを馳せる少女たちなのだろうけど。

私はこんな所に生まれたくなんてなかった。

ただ政治の材料として扱われるだけの役目ならば、私はこの幻想のポジションすら憎んでやる。
他人の芝生は青いなんてそんな言葉があるのと同じ。
近づけば近づくほどその薄汚さに気付くものだ。


そう、思っていた。


その日私は逃げ出したくなって1人こっそりと王宮を抜け出した。
なぜなら、私の婚約相手が訪れるのだと人伝てに聞いてしまったから。
政略結婚なんてまっぴら。
私は自由に生きたいだけなのに。

王宮を北に行った山の方にある高い灯台のようなこの場所は、この国が見渡せる私の特等席。
私はこの国が好きなだけ。
だからこそ誰かのもとに嫁ぎたくなんてない。


『…はぁ…』


どうしたらいいんだろう。
今頃婚約相手を王宮で待たせてしまっているのだろうか。

悪いなぁと思いつつも戻る気なんかさらさらなくて。



「ため息を付くと幸福が幸福が逃げてしまうよ」

『…え?』



俯いていた私の頭に降ってきたのは聞いたことのない男の人の声だった。


「やぁお嬢さん。隣、構わないかい?」
『あ、どうぞ』

「すまないな」


紫色の長い髪をひと束に結っているけど、肩に掛かった何房かの髪が座った拍子にサラリと落ちた。
随分と豪華な宝飾を携えていらっしゃる。
顔立ちもどことなく違う国の方のような気がする。


『…もしかして、シンドリアの使者の方ですか?』

「ん?まぁそんなところだ」
『私を探しに?』
「それもあるが…この国をもっと知りたくてな」


そう言って彼はこの国の町並みを見渡す。
どうやら悪い方ではなさそうだ。
私を探しに来たのに強引に連れ戻さないということは相手の方もさほど私のことなど気にしていないのだろう。

それよりも私はこの人の方に興味がある。


『ここから見渡すと綺麗でしょう?』
「そうだな。すべてが一望できる……生き生きと今を生きる国民たちも、草木も動物たちもな」


素直に素敵な方だなぁと思った。
今や内政なんて自国の利益しか考えないバカみたいな人が多いっていうのに、この人は他国である私の国までもこうも真剣に向かい合ってくださっている。

いいなぁ…こんな人とならきっと婚約もできるんだろうな。
しかし現実はそんなに甘くないし、いい加減腹をくくらないといけないのかもしれない。
現実に向かい合う前に、これだけこの人に聞いておきたかった。


『…シンドリアで生きるあなたからしても…いい国だと、思いますか?』
「あぁ。あなたがこの国から離れたくないというのもよくわかる」
『!』


にっこりと笑った男性は私の隣から立ち上がった。


「姫君は、この国を守りたいのでしょう?」
『……はい』

「自国を愛する心。それに俺は惹かれたからこうしてここにやって来た」

『……え?』


あなたは一体、と。
思ったことを口から吐き出す前に答えが出てしまった。


「姫君と手を取り、互いの国を守りたいがために」


もしかしてこの方は。



「俺はシンドリア国王シンドバッド。……この手を取ってもらえると、俺は嬉しいんだが」



運命とか奇跡なんて言葉は信じていないけれど。
こんな出会いもあるなんて、まだまだこの世も捨てたものじゃないかもしれない。





芽吹く光はまだ遠い

(姫君?)
(……よろしく、お願いします)



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逆に元の奇跡夢主設定が迷子…。
これ…ifにした意味がry
面白そうなリクエストだったのになかなか表現しきれない天音に文才をください!\(^p^)/

でもシン様は最初絶対王だってことを言わないで近付いてきそうです。
それでありのままの相手を知ってから身分を明かす。
そんな天音の妄想によりこうなった話でした。

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