皇女の血を引いていると自覚をしていても、その血を呪ったことはなかった。
ただ時に派閥のようなものの争いに巻き込まれるのが面倒かなと思うときはあったが特に取り立ててなにかを感じることもない。
自分はまだ幼かった。
だから年頃になった今、年頃には年頃の悩みを抱えることとなってしまった。

姉である白瑛と白龍の鍛錬を傍で見ていた名前は2人から少し意識を離し辺りを見回している。
まるでなにかを探しているように、しかし誰にも悟られないように。


「姉上…一体何かあったんでしょうか」
「…そうですね……私たちといる時でも名前はどこか上の空…」


剣を交える間に密かに交わされていたことを名前は知らない。
名前がどこかおかしくなり出したのはいつからだっただろう。
周りには悟られていないと思っているのだろうが、実の姉弟の目は誤魔化せなかった。

とにかく話を聞かなければ解決策を共に探すこともできない。
ならば話をするしかないとひっそり2人で話し合った結果、適度に汗をかき互いの武器を仕舞った。
そして白瑛は名前の方へと一手を仕掛ける。


「名前、この後一緒に散歩でもどうですか?」
『え!?あ、姉上…私は…その、』


女である白瑛の方が何かと相談をしやすいのではないかと踏んで白瑛に発破をかけさせたのだが。
なぜか余計に目に見えて焦りだした名前に白龍も違和感を覚えた。


「姫様ーっ!」

『!』

「あっ皇子たちもいらっしゃいましたか!」
「青舜、どうかしたのか?」

『…!…!』
「あら?」


白瑛の部下、青舜がこちらに駆けてくる。
それに比例するように名前は白瑛の背中の影にすすすっと身を潜めるように姿を隠そうとしていた。

もしかして…と白瑛の中で立った1つの確証。


「青舜、どうやら名前を気分転換のために散歩に連れ出してあげてくれませんか」
『姉上っ!?私はそんな…!』

「名前様を?」
「はい」
『青舜っ!べ、別にいいから!』


思わず白瑛の後ろから飛び出して必死に否定をする名前。
白龍が白瑛の方を向けば白瑛がなにかを訴えかけるようなウインクを1つ。

名前と白瑛、そして青舜の様子を見て白龍は察した。


「そうだな…青舜、姉上を頼む」
『白龍まで!?』

「お二人が言うのであれば!参りましょう名前様」
『……』
「名前様?」
『…ちょっとだけだからね』


複雑そうな印象を与える名前の表情に、白龍と白瑛は顔を見合わせて笑った。
隣で肩を並べ、歩いていく2人の姿。

背丈もほぼ並ぶ幼い2人の胸の内に秘めた気持ちがどうなるか、白瑛にはなんとなく先が読めてしまっていた。

名前のことだ、どうせ身分を気にしているのだろう。
しかし、青舜と名前の気持ちの行方は彼らにしかわからない。





可愛い従者と妹の行方

(名前の姉として、青舜の主としては複雑ですね)
(?姉上?)
(いえ、なんでもないです)

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