否が応にも目で追ってしまう、あの人の姿を。
煌帝国にやって来た時、一目で自分の心を奪っていったのは不思議な空気を纏う少女だった。

ジュダルの後ろに隠れながらこちらを見ている彼女の姿に、俺は心奪われてしまったんだ。

それ以上に、ジュダルに気に入られている様子なのが気に食わない。
純粋無垢でジュダルの好きな人の醜いところなど出しそうにも好きそうでもなさそうな彼女が、一体なぜ。
紅炎殿は容認しているようだったがよくは思っていないと言っていた。


「あいつ…名前には"種"が植えつけられている」
「…種?」

「ジュダルの遊び道具…そして狂気の種をな」
「!」


種の芽吹きはいつなのだろう。
早く芽を摘むか、いやそんな種はない方がいいに決まっている。

宛がわれた部屋に案内される途中、一度見たら忘れられない美しい銀色の髪が見えた。
彼女も俺に気付いたのか目を見開いてこちらを見ている。


「やぁ」
『貴方は…』


俺から歩み寄っていけば彼女に浮かんだのは苦い表情。

なんとなくわかっていた。
この国において、しかもジュダルを傍に置きながら俺にあまりいい印象はないだろう。
(あったとしてせいぜい"バカ殿"ぐらいか)
いや、それもいい印象ではないが。


『紅炎さんとの会談は?』
「もう終わったよ。それより君と話がしたくてね」
『……私は話すことなんてありません』
「まぁそう言わないでくれ」


近くで見ると、余計に目について離れなくなりそうだ。
まっすぐな瞳に射抜かれそうになる。


「君にはウリエルの力が宿っていると聞いたが」

『はい。なんならあなたの夢に出て見せることもできますよ』
「いや、それは遠慮しておこう。…しかしまさか本当とは」


ウリエル、そして彼女はジュダルには恰好の遊び道具なのだろうか。
あいつにとってははたまた、"意識ある玩具"か。

そんな形でいいのだろうか、いや…いい筈はない。
しかし俺に何かできるわけでもないこの現実。
"王"とは言っても所詮は人の子だ。


「あーっ!おいバカ殿!なに名前に手ェ出してんだよ!!」

『じゅっ、ジュダルさん!?』
「ジュダル!!」

「名前に変なこと吹き込んでないだろうな」
「お前に言われたくないな」
『ジュダルさんを悪く言わないでくださいっ』
「失敬。そんなつもりはないから安心してくれ」


ジュダルに背後から飛びつかれたことに驚いた名前だったが、俺の言葉に急に目つきがきつくなった。
きつくなると言っても可愛いものだ。


「…なんだバカ殿。妙に名前には優しいじゃねーの」
「彼女は…名前はお前とは違うからな」


そうだ。俺にもジュダルにも名前にも決定的な違いがある。



「いつか君が……俺の手を取ってくれることを願うよ」



―全てはルフの導きの元に。

俺は名前にそれだけを伝えて背中を向けた。
この国に彼女が染まってしまう前に。

俺の願いが届くことがあったかなかったか、それは―………






まだ見ぬ来世に夢を

(…あの人は…一体…?)
(……名前?)



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なぜ煌帝国が絡むとこんなにシリアスになってしまうのか…(´-ω-`;)
でも敵対する名前の様子は新鮮で面白いです。
名前が差し伸べられる手を拒絶するのは大体相手を思ってのことです。
なのでこのような形での拒絶はまた違う雰囲気ですね!
シン様的にも惚れたという以外にいろいろ思うことがあるようです(´ω`*)

リクエストありがとうございました!
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