※黒子のバスケ要素注意




「あー…なんか最近調子悪いっッスね〜」

「珍しいですね黄瀬くん。スランプですか」


広々とした体育館にボールのバウンド音が反響する。
汗を練習用のTシャツの裾で拭い、座り込んだ黄瀬にタオルを手渡す黒子。
もらったタオルで顔を覆い、そのまま天井を向いて寝転がった。
冷たい床が火照った体を冷やして気持ちがいい。


「こういう役目は桃っちにやって欲しいっスね」
「文句言わないでください」
「別に黒子っちが嫌なわけじゃないっすよ!」
「知ってます」


笑う元気があるなら大丈夫だろう。
黒子が自分の練習にと黄瀬に背を向け、同時に黄瀬がタオルで隠していた視界を露にする。



「あー……………あ!!???!?」



驚く間もなく轟く体育館にあるまじき轟音。
何かが地面に落下する音だ。


「黄瀬く…え」


黄瀬の悲鳴も同時に響き何事かと黒子が振り返る。
しかしそこにいたのは思い描いた黄瀬がいたわけではなく。
現実からかけ離れた風景が黒子の目の前には広がっていた。


「おい名前、大丈夫か?」
『私は大丈夫ですけど…ここは一体…』

「…お、降りてくださいッス〜!ギブギブ!」

「ん?」『え?』


人が、人がいるのだ。
しかも一目でわかる程に時代感がまるで違う。

紫色の長い髪を結わえた、装飾品を沢山身に着けた人物。
そして一方は銀色の長い髪をしている気弱そうな少女だった。
今黄瀬の背中に乗りかかっている2人はいったいどこからやってきた何者なのか。


「……とりあえず、黄瀬くん。状況を説明してください」
「俺だって知らないっすよ!この人たちが空から降って来たんス!」

「…」

「あ、疑ってるっすねその眼は!ホントっすよ!!?」


まさに白い眼、というのが正しい黒子の視線を一身に浴びる黄瀬に、助け舟と言わんばかりに声を上げたのは少女の方だった。


『…えっと…あの、すいません。多分その人の言ってることはあってるんだと思います…』
「ほら!」
「…ヤムライハのせいか?」
『おそらくそうかと』


「さっきからうるさいのだよ!」
「うっせーぞ黄瀬!」


バターンと体育館のドアが開き、黒子と黄瀬からすれば見慣れた顔が2人、また話をややこしくさせるものが。
互いにきょとんとしている、といった表現がよく似合い変な沈黙が体育館に流れた。


「あっ……赤司!赤司ィィイィイー!!」


青峰が叫ぶように上げた声は体育館に木霊した。










「……で、状況をまとめようか」


至って冷静にやって来た赤司、騒ぎを聞きつけた紫原、桃井もやってきてややこしさの増す騒ぎを赤司がぴしゃりと一括。


「まずは自己紹介をしよう。僕は赤司征十郎」
「紫原敦〜」
「青峰大輝だ」
「緑間真太郎なのだよ」
「黄瀬良太っす」
「黒子テツヤです」
「桃井さつきよ!」


わかりやすい、というかそのままというか。
名前と顔の一致がすぐにしそうな名前を聞いて2人は顔を見合わせる。
今この場をどうにかするには彼らから情報を知ることが不可欠だとなんとなく察した。


『私は名前と言います』
「俺はシンドバッド!シンドリアという国の王だ」

「…シンドバッド!??!」
「なんだ?知っているのか?」


突然声を上げた緑間にシンドバッドが首をかしげる。
知られていてもおかしくない程の知名度とはいえ明らかに世界の違う彼らがなぜ知っているのだろうかと。


「シンドバッドと言えば…!千夜一夜物語の中の船乗りシンドバードの物語の主人公で有名なのだよ!(by:wikipedia)」

「マジで!?有名人っスか!?」
「お?書物なら確かに俺も出してるぞ!」

『…いえ、ちょっとそれとこれとは違うと思いますよ』
「そうだな。こちらの世界で俗にいう"アラビアンナイト"、の世界か…」


腕を組み頭を抱える者が数名。
違う世界からやって来た、という認識は間違っていなかったようだ。


「………なんだかよくわかんないしー」
『ん、むっ?』


口に突っ込まれた棒状のお菓子、"まいう棒"を名前の口に突っ込み紫原は名前の頭にポンと手を置いた。
大きな手のひらに収まってしまうような頭の小ささに思わず紫原の口から本音がポロリ。


「ちっちゃ…簡単にヒネリ潰せそう」
「コラむっくん。女の人に失礼でしょ!」

「お前は女じゃねーよな」
「なによ大ちゃん!このデリカシーなし!」


もう、と桃井は怒ったが紫原や青峰に反省の色は見られない。
名前はさくさくと口に突っ込まれたそれを消化していき、口の中がほぼ空になった状態で名前はお菓子に水気を吸い取られた口を開いた。


『…ほっといてください。これでも17です』


「「「「「……嘘ぉ!?」」」」」


『えぇ!?ちょっ…ひ、ひど…!』
「名前は顔が幼いからな。アリババくんたちの時もそんな反応だったか」
「……"怪傑アリババ"までそっちには実在しているのか」

「訳がわからんのだよ…非現実的な」
「緑間くんの考えは固いんですよ」
「逆にお前はなぜ普通にしていられるのだよ黒子」
「してますよ。動揺」


しれっと言う黒子からは彼の口で言う動揺が全く見られない。
ポーカーフェイスにも程があると緑間は改めて思ったがそれが黒子テツヤという人物だ。

まぁいつか帰れるだろうとシンドバッドの楽観的な言葉が炸裂し、彼の冒険心に火が付き出した。
改めて辺りを見回す様子に名前はやれやれと息をついて帰るまではしっかり見張っておかないとと心に決めたのは内緒である。


「そうだ、さっきから気になっていたんだこれはなんだ?なにやら沢山あるようだが」
「それはバスケットボールですよ。スポーツに使うボールです。……やってみます?」
「あぁ!」


バスケットの話になると話は別なのか、一変して空気が柔らかいものに変わった。
身長の高いシンドバッドはきっとバスケに向いているだろう。
どこまでもバスケ脳な6人があっという間にシンドバッドを囲んであれやこれやと口を出す。

その光景を見て名前は口元を緩めさせて慣れない滑る床に腰を下ろした。


『シンドバッドさん、楽しそう』
「名前さんはいいんですか?私でよかったら教えちゃいますよ!」

『ありがとう桃井ちゃん』


名前の隣に腰を下ろした桃井。
やはり女性は汗を流す男の背中を見て成長するものなのだろうか。


「うおおおダンク!いきなりとかすげぇっスね!」
「ん?投げるのが面倒だからそのまま行ったんだが…駄目だったか?」
「なんかムカつくわー…オイ、俺と1on1しろよ!」
「大人げないですね青峰くん」
「相手の方が大人でしょー」
「プライドの問題なのだよ」
「大輝もバスケになるとうるさいからな」


人の声しか音のなかった空間にボールのバウンド音やバッシュのスキール音が木霊し始めた。
冒険心や好奇心を剥き出しにしたシンドバッドの心は今や黒子達少年と同等のもの。


『…やっぱりかっこいいね、オトコノコって』


そう言って笑って見せる名前の姿に、桃井は綺麗だと思うと同時にやっぱり大人の女性だなぁと感じたのだった。






例え世界が変わろうとも

(私は変わらずあなたの傍に)

(名前ー!お前もやるか?)
(え?)



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この後、スリーポイントシュートを決めた名前に対して緑間が因縁つけて戦うみたいな展開にしようとしましたが文才がなくて上手く書けなかったためカット。
というか、まだキセキと桃井がまだ中学生だから年齢がwww
まだ14歳ですよねw信じられないw

若干しか触れてませんが2人はヤムさんの実験の失敗によって飛んできちゃったという設定です。
どうやって帰って来たかはご想像にお任せします←
あと、シン様があんな靴で体育館を走り回って床は大丈夫なのかとか装飾品邪魔じゃね?とか突っ込んだら負け^ω^

他作品コラボは初めてだったのでなかなか面白い経験ができました。
面白いリクエストありがとうございました!

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