輝かしい朝日が中庭に差し込む。 名前は空を見上げ、その朝日を一身に浴びつつその明るさに片方の目を閉じた。 今日もいい天気だと呟いた名前の足元には鈴蘭。 「名前?」 『え、あ、青舜!おはよ』 「おはようございます。今日もここですか?」 『うん』 聞こえてきた声に顔を上げると見慣れた顔が視界に映る。 今さっき名前が与えた水を滴らせている鈴蘭を見て少し微笑んだ。 何事にも成長を感じるというのは心に暖かいものを与えるのではないだろうか。 思いながら名前は立ち上がる。 並べば殆ど同じ距離にいるのに、心の距離がもどかしくて。 「皇子達は今日から遠征じゃなかったですか?」 『うん。あと数刻したら。今は準備してこいって言われていたから』 白瑛に仕える青舜。 白瑛の弟、白龍に仕える名前。 仕える主は血の繋がった姉弟だというのになぜこんなに2人の距離は遠いのだろう。 「どれくらいになるかは…?」 『わからない』 「…そうですか」 『ねぇ青舜。私が留守の間この子お願いしててもいい?』 それは名前のささやかな願い。 この花だけは、例え自分の思いは美しく咲かなかったとしても、この鈴蘭だけは綺麗に咲いて欲しい。 「…私でいいんですか?」 『青舜がいいの』 なんで、とは言わないけれど。 交わった瞳に揺れる幾多の思い。 伝えることもせずただただ自分たちが成長するにつれてその距離は離れていってしまう。 花は水があれば育つというのに。 思いは育てば育つほど表に出すことはできなくなる。 「名前!」 『!白龍様!』 「こんなところにいたのか」 『すいません、私なんかを探させるなど…お手数おかけしました』 「いや。別にいい…青舜、姉上は?」 「今は紅明様の元です」 「…そうか………。そろそろ出るぞ、名前」 『はい!』 ここに来る前、早急にまとめた荷物を取ってこなければ、と名前は言葉もあまり交わさないまま一度部屋へ戻っていった。 涼しげな鈴の音を響かせる名前を見送った2人。 男2人でこの静まり返った中、白龍は足元に咲く鈴蘭と青舜を交互に見やり、そして口を開く。 「青舜」 「?何でしょう皇子」 「……頼んだぞ」 白龍は何を、とも言わない。 もしかしたら愛する姉の為かもしれないし、今視線で送った彼女のことなのかもしれない。 「…はい」 しかし、ここで肯定しなければ青舜は心の中で何かを否定してしまう気がした。 見送った背中。 耳に残る鈴の音。 全てが青舜を支配して離さない。 それでも自分が仕えるべき人を違えてしまってはならないのだから。 風に揺れる鈴蘭は何も知らないが、きっと何かを知っているのだろう。 青舜は凛と咲く一輪の花に1つ、誰にも知りえない願いを込めたのだった。 他が為でなく貴方の為に (凛と咲く花を、守ろうではないか) -------------------- まず、仕える人が違うというだけで名前は思いを伝えなかったでしょう。 同じ相手に仕え、同じものを守ることに意味があり…死するときは共に。そう思って。 白龍も白瑛も2人の関係をわかっていて何も言わない。 この姉弟はそういう心の持ち主だと。 リクエストありがとうございました^^ _ |