小さな足音とともにかけていく小さな後姿。
普段はシンドリアにいない名前にすれ違うものはその姿を微笑ましく見守り、あるものは癒しを得ていた。


『シンさま、シンさま!』
「ん?名前か、どうかしたか?」

『わっ!』


シンドバッドも微笑ましく名前を見守る一員であり、屈んで名前の脇に手を差し入れて持ち上げる。
名前の扱いに長けている彼には抱きかかえるのも慣れたものだ。
しかしそれを良しとしない名前が腕の中で抵抗を見せる。


『降ろしてくださいっ』
「はっはっは。で、なにかあったか?」

『にいさまとまするーるのいばしょしりませんか?』

「ん?あの2人…は、今日はどこだったか…」
「名前!」


あ、と声を上げるまでもなくシンドバッドの腕から名前を奪い取った。
その人物のは名前と同じ褐色の肌であり名前の実の兄。


『おーろーせーっ!』
「うるせー!お前王サマに迷惑かけてないだろうな!」
『にいさまじゃあるまいし!』

「おいおい落ち着けシャルルカン。名前は何もしてないぞ」


抱えられた腕を思いっきり抓り、頬を抓り、醜い兄妹間の争いが目の前で行われる。
手加減というものを知っているのだろうかどうなのだろうか。
名前の本気はまだ可愛いものだがシャルルカンが名前に本気を出したら笑い事ではない。
そうなっていない辺り手加減をしているのだろうが、はたから見たらまだまだ小さい名前に本気で突っかかっているように見えるのだから恐ろしいものだ。

シンドバッドや上層の者達はもう慣れたものだが時にこの兄妹喧嘩を初めて見たものは大抵驚く。
大人げないというか子供っぽいところがあるというか、同等レベルで喧嘩をするのは大人としてどうなのだろうと思われるがこれがこの兄妹なのだから仕方がない。


「名前、シャルルカンとマスルールを探してたんじゃないのか?」
「俺と?マスルールを?」

『だからはーなーせ!今日こそにいさまとマスルールをぼこぼこにしてやるんだからね…!』

「やれるもんならやってみろってんだバーカ!」
『いったな…!』


名前の目がキッと吊り上ってがさりとどこからともなく取り出した槍の柄。


「それでどーする気だよ?」
『こーするの!』


言葉と共に柄がシャルルカンの下腹部に投げられた。
そしてそれは男性にとっては恐ろしいところを目がけて飛んでいく。



「!!!!!??!??!?」


クリーンヒット。
そうでしか形容できない直撃、声にならない声が廊下に響き渡った。

名前を掴んでいた手が離れシャルルカンがその場に蹲る。
思わずシンドバッドはその痛みを疑似体験し青ざめながら己の下腹部を抑えた。
悶絶するシャルルカンの横で笑いながら自分の槍の柄を拾う名前はとても無邪気だ。
しかし邪気がない故に恐ろしい行為をえげつなく行うことができるのかもしれない。

笑う名前をよそにシンドバッドとシャルルカンは子供というものに静かに恐怖を覚えるのだった。




天真爛漫

(先輩こんなところでなにしてんスか)
(う……うっせー…!)


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幼女になっても気が強い。それが名前
無邪気ほど恐ろしいものってないと思います。
しかし無邪気と言いながら名前には若干の邪気が含まれます←
ただしマスルールとシャルルカンに対してだけです。
マスルールも出したかったんですがこの流れだとマスルールくんはクリーンヒットしてくれないと思ったので←

リクエストありがとうございました!

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