女として、着るものを気にしろとピスティに言われたのは数日前。
しかし煌びやかな可愛かったり美しかったりする衣服を身に纏うのは名前の思考には合わなかった。
ただ仕事がしやすく動きやすいのを選びたがるのが名前である。


『そろそろ何か買いに行かないとなぁー』
「何をです?」

『服』


ジャーファルの問いに答えた名前がぐぐーっと椅子から立ち上がって伸びをした。


「お前けっこう持ってなかったか?」
『兄様はわかってないねー。女っていうのは色々あるんだって』
「…そうか、お前も女だったか」
『…喧嘩売ってんのか〜?マスルール』


立ち上がったその足をマスルールのもとに向けて額に青筋を浮かび上がらせる名前。
その表情は笑顔なのだから恐ろしい。
マスルールは顔色ひとつ変えずに軽く名前をあしらい王宮から外を見やった。


「なら買いに行けばいいだろ」

『えー。じゃあマスルール荷物持ち』
「別にそれだけなら」
『ホントに?やりー』


ここまではなんのことのない約束だった。
1部の人間からすれば特に問題もないだろう。

シャルルカン・ジャーファルは思わず手を止めてマスルールに視線を集めた。
無表情のマスルールが、なぜか憎たらしく笑っているように見える。
ビシリと空気に亀裂が入った音。
ただし名前には聞こえていない。


「おい待てよ名前。お前マスルールと買い物に行く気か」
『そうだけど』
「そんなセンス0のやつと買い物に行って買い物が捗るとでも思ってんのか?」

「先輩失礼ッスね」
「事実だろ」

「それなら私が行きましょうか?」
『あ、そう言えばジャーファルさん私服持ってないとか言ってましたね』
「えぇ。なのでついでに」


今は着ることのできない、幼い頃にシンドバッドからもらった1着しか私服がないというジャーファルの話を昔に聞いたことがある。
そんなこと知らなかったと驚くシャルルカンを尻目にジャーファルが最後の書類にサインをした。


「ちょ、ジャーファルさんまで抜けがけすか」
「貴方たち2人は仕事が終わってないでしょう?」


まさに正論。
言い返すこともできないシャルルカンだがこのまま引き下がるわけにも行かない。

服はその人を着飾る大事な1パーツ。
それを他の男を含めて決められるというのはいい気分ではないもの。


「仕事は明日やればいいんでしょう?」
「やるんですか?」
「どうせやらないッスね」
「うっせ!」

『なに、兄様も買い物行きたいの?』
「悪いか!」


なぜこれだけ必死になるのか名前には理解が追いつかず声を荒げたシャルルカンに少し驚いた。
そして何を思ったのか指を顎にかけて何かを考え始める。

どうかしたのか、とシャルルカンが声をかけた時。名前はそうだと言わんばかりに手を打った。


『じゃあ3人で買い物行ってきたら?』
「「「は?」」」

『私はヤムかピスティ誘うことにするから。そんじゃ、失礼〜』


ひらりと手を振りながら執務室を去っていく名前。
駆けていく足音が聞こえ、それはヤムライハの部屋の方へと消えてく。

残された3人はただ黙って名前の消えた扉を見つめるのみ。
無言の空間の中、ジャーファルが静かに告げる。


「シャルルカン、とりあえず表に出なさい」
「俺も相手するんで」

「なんで!?なんで俺のせいなの!?」

「「問答無用」」


その後響き渡った叫び声が名前の元に届くことはなかった。




気付かぬ心を憂う

(でさーそれで兄様達置いてきたんだけど)

(…名前ってさ…)
(案外鈍感よね)
(え?ウソ?)


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シャルって知らぬ間に女の子に露出高い服着させそうなイメージ
マスとジャーさんはシンプルイズベスト。しかしセンスはない。
ってな感じで天音はみんなのセンスを足して3で割ればいいと思ってます←
ピスティとヤムさん服のお買い物行ってみたい…(´∀`)

リクエストありがとうございました!

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