風邪を引いた時、誰かにそれを移せば治るというが誰かに移してでも直したいとは思わない。 名前もその考えの持ち主であり、現在名前は風邪で床に伏せっていた。 『…さみしいなぁ…』 人肌恋しくなる、というより誰かに甘えたくてしょうがないのだ。 でも自分から出ていくことはしたくない。 迷惑をかけるぐらいなら布団の中で寝ていたほうがマシだ。 コンコン 「名前、起きてますか?」 『!』 寝ようとした眠気はノックの音で飛んで行き、名前はガバっと布団から顔を出す。 名前が体を起こしたのと扉が開いたのはほぼ同時で。 『ジャーファルさん!』 「こら名前、あんまり動いたらダメですよ」 喜んだのが顔に出ていたのか今にも布団から飛び出してきそうな名前を制してジャーファルは名前を布団に戻らせた。 誰かが来たのが相当嬉しかったのだろう、えへへと笑う名前の頭をジャーファルが撫でる。 その手に自分から頭を擦り付けるようにジャーファルに擦り寄る名前。 まるで猫のようだと思いつつ、ジャーファルは大人しく名前の頭を撫で続けた。 『お仕事の方は?』 「大丈夫ですよ。シンにしっかりやらせてますから」 『…心配ですね』 「全くあなたは…今ぐらいは自分の心配をしなさい」 そう息をついて今日はゆっくりしていいんですから、ともう一度最後に頭を撫でてジャーファルは優しげに微笑んだ。 じゃあお言葉に甘えてと言わんばかりに名前の瞼が下がりかけた時、今度はノックすらせずに名前の部屋の扉が開く。 「やっほー名前!お菓子あるけどいる〜?ってありゃ」 「こらピスティ!名前ちゃんごめんなさいね。……あら、ジャーファルさんも来てらしたんですか」 「えぇ」 『ヤムライハさん、ピスティさん!』 「あぁもう名前ちゃん、ちゃんと寝てないとダメでしょ」 「まぁまぁ怒らないのヤム!お腹減ってない〜?これ食べる?」 『た、食べます』 「全く…」 人が集まってしまえば寝ることは難しいだろう。 一旦このピスティの餌付けが終わるまで待とうとジャーファル。 ヤムライハは小動物のようにピスティから貰った菓子を頬張っているが、どうにもそれが可愛くてヤムライハも思わず名前の頭を撫でる。 幸せそうにピスティから菓子をもらいヤムライハに頭を撫でられる名前。 やはり人に囲まれている方が名前は症に合う。 持ってきた菓子を消化しまったりと一息。 しかし時間は過ぎ去っているもので。 「ほらピスティ。まだ仕事は終わってませんよ」 「えー!もうちょっといいじゃーん」 「ダメよ。名前ちゃんも可愛そうだし…」 『えと、お仕事終わってから…また来てくれたら嬉しいです』 仕事なのに引き止めるのも悪い。 しかしまた来て欲しい、というのは最大限の甘え。 ジャーファルたちの背中を見送ってまたぽつんと部屋にひとりっきり。 やっぱり一人は嫌だなぁと改めて思って名前は早くまた誰か来てくれないかと懇願した。 「ふー…やっと行ったか…」 『!シンドバッドさ…!』 シーッ、と立てた人差し指を口元に当て静かにしろと暗に名前に言い掛けたのはシンドバッドだった。 パッと慌てて自分で口を塞いで自分の部屋の窓をよじ登ってくるシンドバッドを見守る。 彼が地面に両の足を付けてから名前は口元を覆っていた手を離した。 『お、お仕事は?』 「そんなことより名前が心配でな!」 ジャーファルたちには内緒だぞ?と茶目っ気を含めさせて笑うシンドバッドに名前は堪らずに布団から飛び出した。 「うおっ!?」 『寂しかったです…』 しっかりと名前を受け止め自分の腕に収めた小さな体は風邪のせいでまだ火照っている。 しかしその口から出てきた言葉は衝撃的で。 思わず自分から抱き返したくなるが名前は病人、名前は病人、と自分で必死に自己暗示をかける。 何のためにジャーファル達にバレないように来たのかこれではわからない。 落ち着け、素数を数えろと自分に言い聞かせて胸にすがりつく名前に視線を落とす。 『シンドバッドさん…?』 「〜〜〜!!!」 潤んだ瞳に上目遣い。 なんでこんなに破壊力があるんだともう訳のわからない言い訳をしながらシンドバッドはガバっと名前を抱きしめた。 風邪が移るからと控えていた名前だったが、背中に回った腕の力に思わず自分もその手に力を込める。 甘えたなのも考えものだ、自分で自分に言い訳をして明日自分が風邪をひく未来を見たとか。 貴方と甘い誘惑と (…シン。今の状況を正直に説明したら許してあげます) (いや許す気ないだろうその殺気。まずは眷属機を仕舞えジャーファル) ----------- 甘えた要素があんまり入ってなくてすいません…!(スライディング土下座) ヒィィ甘甘が苦手なのをどうにか克服すべきですね…! あの後シン様は腕の中で寝てしまった名前を動かすこともできずジャーファル達に発見されるまで部屋に居座ってました。(そしてラストに至る) リクエストありがとうございました(´ω`*) _ |