ばったり。

予想だにしない合挽き状態となりまさかととある人物の部屋の前で顔を合わせたのは、とある国の王ととある国の王子だった。
王と王子、という響きからは高貴な印象しか与えない合挽きに見えるが、実は一切そんなことはない。

ただ2人は、この目の前の部屋の主に用があるだけである。
仕事、ということではないらしい2人。
しかし2人にしては仕事ではない私情だからこそこの場で顔を合わせるのが問題なのである。


「…アリババくん。もしや名前に用事か?」
「えっと…そんな所です。…シンドバッドさんこそ…名前に用があるんですか?」
「あぁ私用でね」


にこやかに会話をしているように見えるが背後に渦巻いているものはもう少しどす黒いものだった。
アポは取っていないとは言えダブルブッキングしてしまったが、名前は一人しかいない。
そしてどちらも私用ということは優先順位は横並び。


『誰かいるんですか?』
「「名前!」」

『あ、シンドバッドさん!アリババくん!私に何か?』

「名前!ちょっと一緒に市場行かねぇか?」
『市場に?』
「アリババくん抜けがけとはいただけないな。名前、俺と市場に来てくれないか?」


右腕はアリババに。左腕はシンドバッドに。
ガシリと掴まれ左右に引っ張られ、視線も右往左往して名前は額に汗を流した。


『え、え?』

「…シンドバッドさん、さっきジャーファルさんが探してましたけど」
「そういう君こそシャルルカンが探していたようだが?」
『あの…お二人共探している人がいるならそっちに行ったほうが』

「「大丈夫だ」」

『…何でですか』


どこから二人の自信がやってくるのか名前は理解に苦しむ。
アリババはまだしもシンドバッドに至っては自分を含めて尻拭いをさせられるものだからそう簡単にサボることに自信を持たないで欲しい。
左右に引っ張られる体。
名前を挟んで静かに視線の戦いが行われていた。


『えっと…3人で行くという選択肢は?』

「「ない」」
『え』


じゃあどうしろと言うのだろうか。
選べと言われても2人を探している人物がいるとわかっている以上名前は行きたくないとすら思えてきていた。
しかしこの場の収束には選択が強いられている。
どうしろと言うのだろうか。

この場を打開する策を必死に考えていると名前の自室の左右から足音と声が聞こえてきた。



「アリババーッ!!どこ行きやがったー!!」
「シンーッ!」



腕を引っ張る2人の手が離れる。


「ジャーファル…!」
「師匠…!」

「「見つけたァァーっ!」」


獲物を見つけた猟師から逃げられるわけもなかった。

2人がクロスし合い互いに凄まじい勢いで名前の前を駆け抜けていく。
それを追ったジャーファル・シャルルカン両者2人がまた名前の前を全力で通り過ぎていった。



「あ、名前〜!丁度いいや、一緒に市場行かない?」

『ピスティさん。……えっと…私でよければ』



唖然としている名前は結局その日、ピスティと市場に行ったらしい。
その悲報を2人が聞いたのは日が傾き、全てが終わってからであった。





罰ゲームの温度差

(たっだいまー!あれ、どしたの王様?)
(ピスティお前…!)
(アリババくんもなに泣いてんの?)
(……なんでもないですよ…)

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