むすっとしている、と言った表現がこうもしっくりくるとはこういうことを言うのだろうか。
ジャーファルは多々でさえ面白くなさそうな仕事を更に面白くなさそうにこなすシンドバッドを見て思っていた。
仕事をこなすと言ってもジャーファルが望むようにテキパキこなしているわけではない。むしろ逆だ。


『おいでおいで〜』

「…」
「シン、手元がお留守ですよ」


シンドバッドがどこを見ていたのかというと視線の先には名前。
そしてその傍らに、今名前がおいでと呼んだ"ソレ"がいる。


「ジャーファル…」
「ダメです」
「…まだ何も言ってないだろ」
「どうせ名前と"ミケ"のことでしょう」
「……」

『…?どうかしました?』
「なんでもない」


そう。名前の傍らにいたのはシンドバッドの所謂ペットと呼ばれるもの。
ミケと称された生き物はただの生き物ではない。


「…まぁミケがあんなに誰かに懐くのは珍しいですからね」
「……世話が楽になったのはいいんだが…」


途端にミケがガオオオオ、と咆哮する。

それをしたためる名前は笑顔だが、何を隠そうこのミケ。
実は迷宮生物の類の突然変異種の生き物だった。

暴走した際にそれを止めたシンドバッドに屈服し、以来王宮でペットとして飼い慣らしていた訳だ。
普段絶対に人に懐かない気性の荒い生き物だったはずだが、なぜか名前にはマタタビを与えた猫のように懐いている。
見かけは虎のような姿をしているが、大人しくしていれば中身は猫のよう。

ゴロゴロと喉を鳴らすミケ。
それを可愛がる名前。
それを面白くなさそうに見つめるシンドバッド。

全てを理解した上で仕事が進まなくて息をつくジャーファル。
―いい加減に拗ねるのもやめて欲しいものだ。


「シン。手が止まってます」
「……」
「…私はちょっと出ますからね。ちゃんと仕事しててください」


鋭い爪を向けつつも敵意も攻撃性もない、ミケはただ名前にじゃれている。
最初は怯えていた名前も今では専属の遊び相手である。

本当に忙し時にあの巨体にじゃれられたら堪ったものではないので相手をしてくれるのは助かるといえば助かるのだが、その代価として常時シンドバッドが不機嫌になる現象が起こる。
悪循環しか産まないサイクル。
しかし仕事をする以外に術がないのだから困る。

シンドバッド自身も仕事をしなければいけないのはわかっていた。
だが名前のことが気になって仕方がない。


『シンドバッドさん?』
「うおっ!?」
『え!?あ、ごめんなさい?』

「す、すまない。ちょっとぼーっとしていた………ミケは?」
『もう寝ましたよ?』


ご飯を食べ、遊んでから寝る。なんとも欲に忠実なものだ。


「…そうか」
『さっきから、どうかしました?』
「…いや」
『?』


首をかしげた名前の頭を撫でる。
わしわしとその髪を乱しその手に名前の存在を感じた。

―名前はペットではないが、飼い慣らすというのも悪い考えではないな。
まさか自分のペットに拗ねて独占欲を感じることになるとは思ってもいなかった。

こうして名前と触れられる時間が少しあればまたきっと仕事のやる気も出るだろう。
そう思って席を外したジャーファルが戻ってきた時に見たのは、気持ちよさそうに昼寝をするミケと、恥ずかしがる名前を自分の膝の上に乗せて笑っているシンドバッドだった。




目撃するは第三者

(…ミケ、起きてください。出番です)
(あ、おいジャーファル!)
(あの…もう降りてもいいですか…!)


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シンドバッドみたいな人が飼うペットって何かなぁと思った結果こうなりました。
ミケって名前は安直に猫っぽいからです←
普通に虎っぽいもののイメージで。
でもちょっと普通じゃない(´ω`)みたいな←
すいません適当で…!でもそんな生き物にマタタビあげたいというのは天音の願望です。

リクエストありがとうございました!

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