※恋人設定
















そびえ立つは首を上に、左右に向けなければ全貌が見渡せない屋敷。
シエルは持ってきた荷物を持ちぽかんとして足を止めた。


「どうした?足が止まっているが」
『いえ…その、ここまで大きいとは思っていなくて…』


屋敷の主、シンドバッドはこれが普通だと言わんばかりの普通の顔をしている。
学院の理事長である彼の自宅。
勿論小さいとは思っていなかったが予想を超えて大きい敷地と家にシエルは思わず頭を抱えたくなった。


「まぁ気は遣わないでいいぞ。俺しかいないしな」

『お手伝いさんとかいないんですか?』
「週末に掃除だけな。それ以外は俺1人だ」

『…』


それはつまり2人きりということではないのか。
シエルは顔に熱が集まるのがわかったがそれを悟られないように火照った頬を手で覆い隠した。

屋敷の中に足を踏み入れ、客室のような広い部屋に招かれる。
見渡す何もかもが新鮮。
でも屋敷のもの全てがシンドバッドのものなんだ、と思うとなんだか気恥ずかしくもある。


「温かい飲み物でも出そう。何がいい?」
『あ、お構いなく。まずは仕事からですし』

「そう言うな。今日は泊まりだろう?」


"泊まり"という単語にまた顔に熱が集まり出した。
そう。今日自分はこの家に泊まりに来ていたのだ。


『じゃあ…ココアで』
「それでいい。ちょっと待っていてくれ」


部屋を出る際にシエルの頭を撫でて行き、客室のドアが締まる。
シンドバッドが出ていき、少し緊張の糸を緩んだシエルは大きなソファにゆっくりと腰掛けた。

シエルの持ち物は2つ。
1つは学校用の鞄で、教科書や筆記用具が入っている。
もう1つはこの日の為だけの宿泊用の鞄。
服や日用品などを入れているわけだが、ここならある意味なんでも揃いそうである。

シンドバッドのいない内に、シエルは学校用の鞄から厚めの紙の束を取り出した。


『忘れないうちに…と』


紙の束には"生徒会"と書かれており、その紙の1枚1枚には空白が目立つ。
今回理事長である彼の家に来たのはこれを消化する為だ。


「…俺はそんなに溜めてたのか」
『!?は、早かったですね』

「ここから台所は近いんでな」
『ありがとうございます』


いつの間にやら戻ってきていたシンドバッドからマグカップに入った温かいココアを受け取った。

冷えた手にじんわりと熱が伝わる。
しかしこの温まった手で次に握らなければペンなのだから気が重い。


『早く終わらせちゃいましょう理事長』


ココアを机に置いた時、シンドバッドが立てた人差し指をシエルの口元に当てた。


「シエル……今は"理事長"じゃないだろ?」


楽しそうな笑みを浮かべるシンドバッド。
今のシエルとシンドバッドの関係は"生徒会会長"と"学院の理事長"ではない。



『…シンドバッドさん』

「それでよし」
『きゃっ!?』



その名を口に出せばシエルは軽々とシンドバッドの膝の上に乗せられてしまった。

これじゃあ書類処理はしにくいだろうに、
しかし楽しそうに笑うシンドバッドにそんなことが言えるはずもなく。

結局なかなか書類は進まないまま夜は明けていくのだった。





据え膳喰えぬも男の恥

(さすがに寝かせたはいいものの…)
(…zzz)
(………これはとんだ据え膳だよなぁ…)

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