1年に一度、ずっと傍にいてくれた生みの親に感謝をする日。
自分のお腹を痛めてまで自分をこの世界の一因にしてくれた母親への感謝を伝える日。
母の日。世間ではそう呼ばれるこの日に咲き乱れる赤い花が世界を彩る。
『母の日?』
「…まさかハル皇子、忘れてたとか言うんじゃないですよね」
『…………そのまさかだと言ったら、どうする』
部屋の中は日が差して暖かいと言うの今の一瞬でに恐ろしく冷たい空気が部屋を駆け抜けた。
鈍感なところがあるハルですら、質問を投げかけたヤムライハやその場にいた八人将の数名がピシリと固まったのがわかる。
われながらしまったと思ったが既に時は夕刻。
今から街に降りるには遅すぎる時間にハルは頭を抱える。
「皇子サマ…流石にそりゃヤバいんじゃねーの?」
『だってよ…今日に限ってやたら仕事多かったしわかってても街まで行けねぇよ…』
「前から言っておけばよかったのに」
『…!』
ピスティの言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
そうだ。自分はバカか。
珍しく悲観的なものの考え方をするハルにこれはやばいと辺りも少しざわつく。
ハルの母、この国の王妃に当たるシエルに何もしないなど。
それ以前に自分を産んでくれた母に感謝するこの日にそれを忘れていたなどと口が裂けても言えない。
『…道理で母上の部屋が花に溢れてたわけだ…』
「王様?」
『…多分』
「ベタ惚れねぇ…」
そこまで来てなぜ思い出せなかったのか自分が憎い。
ハルは大きなため息をついて今日の朝見た自分の母親の部屋を思い返す。
噎せ返りそうな花の匂い。
しかし不快感を感じるほどではないぐらいに抑えられたそれはしっかりとシエルの事が考えられていて。
思い返せば母と言うより妻であるシエルにそこまでするかと思ったがあの人物ならやりかねないから困る。
実の子供であるハルと母であるシエル。
何もしなくてもシエルは咎めたりはしないだろうが忘れてたとなると罪悪感が増すと言うものだ。
『皆して何してるんです?』
『何って…母上への贈り物を…………って』
「あら………シエルちゃん」
『どうもですヤムライハさん』
「母上…っ!?」
『全く、皆さん執務室にいないしハルもいなくなってるからびっくりしましたよ』
「ごめんねシエル〜」
「皇子サマが急用だってんで」
『…俺のせいかよ』
『貴方のせいでしょう』
『……う』
シエルに言われてしまえば何も言えなくなった。
このタイミングで当人が表れるとは思ってなくてハルの頭も思わず下がったままになる。
『こんなことで集まって…』
『こんなことって…母上に感謝する大事な日だろ!』
『そう思ってくれているだけで十分です』
ふっと頭に感じた手の感覚に顔を上げれば暖かく微笑む母親の姿。
『(あぁ、俺は)』
―この笑顔が見たかったんだな
捧げる花なんていらない。
ぽっと咲く笑顔が花のように広がって。
『今日はシンドバッドさんが私の為に宴まで開いてくれるそうで』
『げっ!?まさかそれで俺の今日の仕事多かったの?!』
「そうですよ」
『知らなかったの俺だけ…?』
『ほら、早く行きましょう』
でも、ただ感謝するだけでは物足りないから。
『母上』
『なんです?』
『ありがとうございます!』
大好きな貴方に
自分の世界を作ってくれた母に
精一杯の言葉と気持ちを
Mother's Day
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