人々は休みというものを存分に満喫するために日々を過ごしているのではないか。
休みの日に思う存分睡眠をとるだとか趣味に時間を費やすだとか、色々とやりたいことがある。
平日には学生には学ぶと言う本分が、社会人には仕事という本分が。

シエルの中で休日は羽を休めるための時間であり、趣味に費やす時間。
人によっては休めてないではないかと言うかもしれないが趣味と言うのが自分を癒す一番の方法だ。

図書館まで足を運び、自分の気になった本を自由に読み漁る。
一度レポートの締め切り前に鉢合わせたアリババには休みにまでそんな事してるのかよと言われたこともあるがシエル本人は気にしていない。
シエル的には、休みにまで部活で体を動かしているアリババの方の理解に苦しむと言うもの。
互いに分からないところはありながらもそれがその人物の羽休めなのだから仕方がないのかもしれない。


『(今日は何を読もうかな)』
『(この前読んだミステリー小説のシリーズものでも…)』


所狭しと並んだ本から何を読むか、背表紙を見たり中身をぱらぱらと捲ってみたり。
そんな試行錯誤も醍醐味の1つ。

今日はこれにしようとシエルは先週の休日に読んだミステリー小説の続編を読むことにした。

静かに沢山の人が並ぶ大きな机の元に席を見つけ腰を下ろす。
ぱらりと新しい1ページを開けば次々に頭に飛び込んでくる文字たち。
しかし決して不快感を与えることのない文字の羅列はむしろ高揚感すら与えるもの。

ミステリーであれば次は何が起こるのか、そして自分のわからないことはどう解明されていくのか。
分からないことを考えるのが楽しい。
それが嫌だと言う人も多々いると思うがシエルはこの本独特の世界にのめり込むのが好きだった。

どれくらいの時間が経ったのかも分からない。
朝の開館時間からずっとそこに席に腰を下ろしていたシエルの肩に誰かが手を置いた。


『、シン…!』


振り向いた先にいた人物に思わず声を上げたくなったがその人物が茶目っ気を含めシー、と人差し指を立てて言うものだからぐっと押し黙る他ない。


『……シンドバッドさん、なんでこんなところに?』
「なんだ、俺がここにいちゃ悪いか?」
『そ、そうじゃないですけど』


シエルの通う学園の理事長でありシエルの恋人でもあるシンドバッドが図書館というものに来るとは思えなかったと言うのが事実であるが小声で話すにはなぜか気まずく感じる。
言葉を濁して言えばシンドバッドが隣に腰を下ろした。


『お仕事ですか?』
「流石に連休は仕事もないし普通は来ないさ、俺はどちらかと言うとアウトドアな人間だからな」
『それは知ってます』
「シエルに聞くには愚問だったか」


ジャーファルにデスクワークを余儀なくされているシンドバッドにはお世辞にもインドアな姿は似合わない。
現にこうして机に向かい座っている姿は理事長室以外では見たことが無かった。

故に違和感を覚えて仕方がなかったシエルだったが、持ってきていた栞を挟み厚い本に一旦の終止符を打つ。
いつもは来ないと言うこの図書館になぜ足を運んだろう。
少し考えてみたが仕事でもないのにここに来る理由がわからない。

シエルが首を傾げているとシンドバッドがやはり俺には似合わないと言わんばかりに席を立ってシエルの手を取った。


「俺がこんなところに来る理由なんて1つだけさ」


人の心と言うのはどんなミステリーよりも難しく、しかし分かれば単純明快で。




「ただシエルに会いたかっただけだよ」




連休中に会えないのが相当嫌だったらしい。
わざわざ行きたくもない図書館まで足を運んで、シエルの手を取って。

このまま今日は静かな休日というのは過ごせないだろう。
しかし隣にシンドバッドがいるならそれでもいいか、とシエルは思い読みかけの本を貸出しカウンターへと持って行くのだった。





答えは単純明快

(よし、昼飯でも食べに行くか)
(…あ、もうお昼だったんですか)

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