俺に残された今日の自由の時間は恐らくあと少し。
多分自分から自主的に帰って行ったとしても説教が降り注ぐのは間違いないだろう。
そう思うと帰るのは億劫だがまぁしょうがない。
(というか逃げ出した俺が悪いし)

煌帝国の貿易船に乗り込んだ俺に、何度か見たことがある煌帝国の貿易官が頭を下げるのが見える。
むしろ俺が邪魔しに来てんだしそう畏まらなくてもなんか言ったりしねぇのにな。


「ハルファス殿?」

『!』


挨拶をしてくる貿易官たちの合間を縫って現れた、俺が会いたかった人。


『白龍さん!』


バッと俺が傍に駆けていけば久しぶりです、と白龍さんの声が降ってきた。
白龍さんは俺の中でアリババさんと同じところに位置付けされていて、所謂男の憧れと言う所に部類されている。

俺がもっと餓鬼だった当初、顔の火傷跡を気にしてなかなか俺に近付いてきてくれなかったことをよく覚えている。
餓鬼の頃の記憶っていうのはなかなか忘れないもんだ。
だから何度目か煌帝国の使者が来た時、俺から近寄って行った。

父上からも母上からもアリババさんからも、皆が教えてくれる白龍さんって人はいい人でしかなかったから。


「そのご様子だと元気なようですね」
『白龍さんも元気そうで』
「はい。おかげさまで」

『今回はすぐに帰るんですか?』
「いえ、1週間は滞在しますよ」
『やりぃ!』


と、ここまで喜んでおいて帰ったら1週間カンヅメとかだったら死ぬわ…。
一瞬背筋にぞくりとしたものを感じたが流石に母上やジャーファルも客人が来ているときにそんなことは………するかもな。

なんとかそれを回避しねぇと白龍さんやアリババさんと話ができねぇ。


『…どうするか…』
「なにかあったんですか?」
『いえ、いつも通り逃げてきたんでどう言い訳しようかと』

「あら、それならもう無駄です事よハル様」

『紅玉姫!相も変わらず麗しいことで』
「…!ほ、褒めても何も出ないわよ!…実はシエルからもう貴方がこちらに来ているのではないかと話は聞いていますの」
『げ……』

「シエル殿は相変わらず鋭いですね」


もう1人。俺が仲良くさせてもらっている麗しい女性、紅玉姫。
こちらはどちらかというと母上がお世話になっている感じだ。
そしてもう俺の行動がばれていると分かった今、俺は母上に頭が上がらない状態になってしまった。

わかっていて連れ戻さないってことは俺がスパルトス含めた3人に会いたくて来てるってのがわかっているから。
遠回しにそれが済んだらさっさと戻ってこいと言っているということだ。


「ハル様の逃亡劇もここまでですわね」
「どの道俺たちも後で王宮には向かいますから、早く戻ってシエル殿とシンドバッド殿を安心させてあげてください」

『…安心…なのか…?』


安心と言うよりどちらかというと怒りのボルテージの方が強い気がしてならないが、2人からそう言われてしまえば仕方ない。


『やれやれ、また是非ゆっくり話でも!』

「はい」
「えぇ」



―『我が身に宿れ』



自分に宿した力。
背中に生えた翼をはためかせ空に舞う俺の体は急上昇する。

見渡す限りに見える海とシンドリアの町並み。
遠くには俺の帰るべき王宮が見えた。
知識しかないまだ見ぬ海の向こうの世界も、見知ったこの地も。

国を愛するってことはこの景色を愛するってことなんじゃないかと俺は思う。


だからまぁ、王宮に帰ったら素直に母上とジャーファルに頭でも下げよう。
それで父上と一緒にしぶしぶ机に向き合おう。


それが俺なりの国の愛し方。


色んな人に支えられ、色んなものを知っていく、俺なりの生き方。





息子から見た世界情景6

(ただいま!)

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