父上の信用に長けた八人将。
今までの流れを見てわかる通り俺も勿論世話になっている訳なんだが、あとその1人。会っていない人物がいる。
『…そういや今日帰ってくるっつってたな』
一連の流れ的になんだか全員に会いたくなって、俺は記憶を思い起こしてみた。
するとあと1人、スパルトスの居場所はとりあえず王宮の外だということに気付く。
そろそろ王宮の中にいても母上かジャーファルに捕まるのがオチだろう。
ならとことん逃げてやろうと思って前々から見つけていた見張りが手薄な場所を狙って王宮から飛び出す。
ここまでの道のりは順調。
俺の逃亡時間はあとどれぐらいかはわからないが会える奴には会える時に会いたいもんで。
見慣れた、でも前来た時より少し変わっている町並みを歩きながら俺は左右を見渡した。
「あらハル様じゃないの!」
『おーおばちゃん!おっちゃんも元気してるかー?』
「おかげさまで元気よぉ!この前はありがとうね」
『いいっていって。気にすんなよ』
当たり前だがこの国で俺の顔なんて割れ割れている。
歩いていれば勿論こうして声はかけられるしどうしても足は止まってしまう。
本日最初に俺を引き留めた店のおばちゃんはこの前ちょっとした病気だったおっちゃんに俺が薬を分けてやったおばちゃんで。
時々しか街に降りてこれない俺にわざわざお礼までとは、おばちゃんもマメなこった。
俺が足を止めれば結構な人だかりができる。
小さな子供から年行くじいちゃんばあちゃんまで。まさに老若男女。
また逃げてきたのかと笑いながら説教する奴やら遊んでとせがむ奴やら。
色々引っ張りだこだと面倒だけど、やっぱりこうして人と触れ合うのは好きだ。
そして何より、俺はこの国が好きだって思える。
『なぁ誰か今日貿易船帰って来てるの見てないか?』
「貿易船?」
「あぁ、スパルトス様が護衛に付いてたやつね!」
「それならさっき港に付いてたよー!」
『うおっ、マジで』
この人だかりなら誰か知ってるだろうと思えば俺の手を取っていた子供が嬉々として教えてくれた。
それなら早くしねぇとすれ違う。
悪い、と緩く手を振り払って俺は人だかりを抜ける。
少し寂しそうな顔をした子供の頭を撫でることを忘れず。
『また降りてくっから!』
笑って言ってやればまた子供に笑顔が咲く。
やっぱりガキは笑ってた方が似合うだろ。
「ハル様!これ持ってきな!」
『おっ、サンキュおっちゃん』
ひゅ、っと投げられて受け取ったのはみずみずしい赤い果実。
走り出せば港は目と鼻の先。
走りながら貰った果実に齧り付けば芳醇な香りが鼻を通り抜けた。
やっぱうめぇ。今度またお土産にでも買って帰ろう。
ま、そんな悠長なことをしている暇はないかもだけど。
辿りついたころには貰いものは既に俺の手から消えていた。
そしててきぱきと到着した貿易船の付近で指示を出す堅苦しいカッコをした奴。
『おーいスパルトスー!』
「!…ハル皇子!こんなところで…」
『まーまー気にすんなって!息抜き息抜き!』
「…ハァ、息抜きって"また"でしょう」
『だから気にすんなって』
相変わらず堅苦しいな、と鎧の上から肩を叩けば同時に出てくるため息。うお、失礼だなおい。
「王と王妃には?」
『言ってねぇ』
「…やはりですか…今日はこの後ちゃんと帰っていただきますよ皇子」
『はいはい。の前によ!貿易船、煌帝国からだろ!』
そう、俺がわざわざここまで出向いたのはこの為。
煌帝国にも会いたい人が何人かいる。
もちろん来ているなんて話も聞いてないがもしかしたら、という淡い期待を持って。
「貴方の会いたい人たちなら来ていらっしゃいますよ」
『マジか!?』
「王と王妃に話は通しておいてあげますから、早めに切り上げてくださいね」
『サンキュースパルトス!さすができる男は違うな!』
やっぱ俺は人に恵まれてんな!
またスパルトスがため息をついた気がするけど気にしたら負けだ!
そして俺は笑いながら探し人がいるであろう煌帝国の貿易船に乗り込んだ。
さて、これが終わったらさすがに王宮に帰らねぇとな。
息子から見た世界情景5
(まったく…本当に王そっくりだな)
(何か言ったかー!?)
(いいえ)
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多分次回でラストです
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