言葉にしなくても伝わる気持ち。
そうはいっても男、シンドバッドは本当の気持ちを相手に探していた。
「シエルはあまり愛しているとは言ってくれないんだな」
『そ、そうですか?』
「なんだか俺ばかりがシエルの事を好きでいる気がして、時に気が気じゃないんだぞ?」
愛した女性は罪な女。
シンドバッドは微かに茶目っ気を含めた言い方でシエルに問うた。
しかしシエルにその自覚はなかったらしい。
素直に疑問に思うのだから罪なもの。
『でも…あまり言い過ぎて言葉に重みが無くなっては意味がない気がするんです』
「それは…まぁそうだな」
『だからシンドバッドさんも好きとは言っても愛してる、とはあまり言わないでしょう?』
「…わかってたのか」
『当然です』
どれだけ隣にいたと思ってるんです、とこれまた茶目っ気を含んだ言葉が返って来てシンドバッドは豆鉄砲くらったような表情をした。
シエルはふふっと笑ってシンドバッドの鼻をつつく。
指先から伝わる小さな熱に愛おしさ。
熱と一緒に流れてくるその感情をシンドバッドはシエルに上手くコントロールされているような気がしていた。
こんなところはジャーファルに感化されてしまったと思いながらも自分を思ってくれているシエルが好きで好きでしょうがない。
『でも不安になったら言ってくれるっていうのも知ってるんです』
「そりゃあ、」
"シエルを愛しているから"
喉まで出かかった言葉を一瞬飲み下し、シンドバッドはシエルの腕を引く。
ちゅ、と触れる唇と頬。
―自分の熱も気持ちもシエルに流れ込んでしまえばいいのに。
そんな思いを込めて、送る口付け。
シエルはシンドバッドの行動にぽっと頬を染め、シンドバッドに改めて向き直る。
『…ずるい、です』
「何がだ?」
するとシエルは細い腕でシンドバッドの服を思いっきり引いた。
不意なことによろける体。
『…私だって』
そしてその唇には、愛おしい熱の籠った、口付けを。
『貴方を…愛してるんですから』
恥ずかしそうに頬を染めながら、しかし悪戯が成功した子供の様に楽しそうに笑う彼女に、シンドバッドは尻に敷かれてしまっているという複雑な気持ちを心の隅に芽生えさせた。
しかしそれでもいいと思ってしまっている自分がいることに気付く。
愛に溺れているのは、溺れたいと思っているのは互いなのだと
それが通じ合えればいい。
それは、言葉にもしなくていい愛の形。
愛に形はないけれど
(大好き)
(愛してる)
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