お腹から込み上げるような不快感。
洗顔の為にと汲んだ水面に映る自分の姿は明らかに健康とは言い難いものだった。

最近何かあった、と聞かれれば思い当たる節はなにもなく。
顔色の悪い自分の姿。そして不快感は形となって自分の口から吐き出されてしまう。
我慢しきれず嘔吐したシエル。


「シエル、大丈夫ですか?」
『…ジャーファルさん?』


その姿を遠目で見つけたジャーファルがシエルに駆け寄り、昔に比べ少し大きくなった背中を摩る。
今やこの背中にシンドリアの未来を背負う一員である彼女。

心配そうに自分を見つめるジャーファルにシエルはすいませんと口元を拭った。


「最近体調が優れないようですが…」
『…はい…でも大丈夫です』
「医者には?」
『いえ、ただ少し気分が悪いだけなので』

「…貴方が大丈夫だというなら信じますが…」


何かあったら言ってください。
そう言ってジャーファルは抱えたままであった書類を新ためて抱え直しシエルの元を一度去る。

ジャーファルの背中を送って自分のお腹を摩るシエル。
この体調不良の原因に1つの考えが過ったがまさかそんな筈はないと自分に言い聞かせ自分も仕事をしに行こうと重い足を前へと動かした。










「ジャーファルから体調が悪そうだと聞いたが…1日ぐらい休んでも気にはしない。無理はしないでくれ」


部屋に足を踏み入れ、シンドバッドに言われたのは数分前。
優しさが胸に突き刺さるように感じてしまうのはどこか体調不良の事をわかっているからだろうか。

昔から変わらない笑顔も暖かさも、
今は目の前にすると何とも言えぬ感情がぐるぐると回る。
それが胸から降りて行ってお腹に溜まってしまったように。


『シンドバッドさん、この書類……っ!』


また催した吐き気にシエルは執務室を飛び出した。

嫌だ、認めたくない。
認めてしまえば全てが崩れてしまうような気がして。
同時にこのままの自分を受け入れてくれる人がいるのかと不安になる。

しかしシエルの中にあった仮定は1つの確信に変わった。



「シエルちゃんっ!」

『……っ、ヤムライハさん……』
「ジャーファルさんと王様から話は聞いたわ、吐き気がしてるのは最近かしら?」


『………はい』

「あと、もしかしてシエルちゃん……」



ぐ、とシエルは唇を噛んだ。
ヤムライハは気付いている。

もう隠し通すことはできない。



「生理、いつから来てない?」
『………何か月か、前から』



自分の身に、もう1つの命が宿っていることを。






貴方と私と、

(もう1つ、加えることができたのならば)


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妊娠ネタ前編です
後編に続きます
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