とある少女は今、とある一つの問題に直面していた。
愛する母親のために必死に縫い合わせて作った衣服が何の恨みがあってか風にさらわれて行ってしまったのだ。
それを追いかけた先。
とある湖の畔の大木の頂きにそれが引っかかっているのが見えた。
しかし少女には荷が重すぎる。
少女、といってもまだまだ自立には早い齢10にも満たない彼女はもちろん木登りなんてしたことはないし、また風にさらわれるのを待つには木が遠い。
ただ自分の運の悪さと運命を恨むしかなかった。
折角頑張って作ったのに、と泣きじゃくる少女。
しかし、途方に暮れる彼女直後舞い降りたのは絶望ではなかった。
「我が身に宿れサタン、ミカエル」
「え…?」
舞い上がる風に白と黒の翼。
涙を掬う為に顔を覆い隠していた手が顔から離れ、視界に映ったのは幻想的な景色だった。
「これは君のかな、お嬢さん」
太陽の光に反射して見えない、声からして男性の声。
だが男性、と言うよりは少年と言った方が正しいだろうか。
声だけでもまだあどけなさを感じさせる。
「ん?あれ、違ったか?」
「い、いいえ!私のです…」
「そうか。ならよかった」
探していた母へのプレゼントを差し出され、それを受け取った時。少女からやっと相手の姿が見えた。
「…天使…?悪魔…?」
しっかりと視界に捉えた双翼の翼はまさに天使と悪魔に見えた。
煌く瞳は黄色と赤。
そう、左右で違うまるで血のような赤が見える。
あ、と声を上げた少年は慌てて自分の左腕にある腕輪に触れた。
「っと…危ない危ない…」
「…?」
辺りがパッと光ったかと思うと少年の背中に生えていた翼は消えた。
瞳は黄色と紫に。
血のような恐ろしさは一切感じられない。
今のは見間違いか、と少女が目元を擦ったが確かにその翼は消えている。
―人の背中に翼が生えるだなんて幻だったのだろうか。
少女の葛藤をよそに少年は少女の手に収まった服を指差した。
「それよりその服、誰かへのプレゼントか?」
「う…うん。お母さんに」
「そっか、お母さんか!」
ニコッと笑い、少年は自分よりも幾分低い位置にある少女の頭を撫でる。
取ってもらった服を胸に抱きしめ、頭を撫でられながら少女は目を細めた。
温かい手のひらはまるで太陽のようで。
「ハルー!どこにいるんですー!」
「げ、母上…」
「?お兄ちゃんのお母さん?」
「あぁ。口うるさいけどお嬢さんと同じ、大事な"お母さん"だな」
遠くから聞こえてきた声に少年は焦りを見せた。
その声は少年の母ということらしい。
ハル、それが少年の名前だった。
聞こえてきた母の声に、ハルは一瞬見せた焦りは次には笑顔に変わっている。
そういうところをみるとどうやらこの少年は楽観的なところがあるようだ。
「お母さんは大事にするんだぞ!」
少年はそう言って背中を向けて少女の前を走っていく。
まるで一陣の風のようだった。
去っていった少年の後ろ姿に手を伸ばした少女。
「あ……」
しかしその手に掴んだのは白と黒、2つの羽だった。
彼は天使だったのか悪魔だったのか。
存在自体が不思議だと感じたあの色の羽は現にここにある。
夢でも見間違いでもなかったんだ、と少女は羽と衣服を握り締めた。
「ありがとー!天使と悪魔のお兄ちゃん!」
天使と悪魔、その両方に魅入られし存在がこの世には存在するのだ。
この国に君臨する王と王妃がまたその存在であると。
誰も知らないその事実を知っている少年。
そんな一国の王子はその瞳に何を見るのだろうか。
その見つめる先に
(光だって闇だって)
(俺の目には映っているのだから)
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※この少女に特に意味はありません
ただ単にハルがシンドバッドとシエルの子供だということを書きたかっただけです←
サタン(悪魔)とミカエル(天使)的にも両親2人を表してます
そんな存在がハルっていう息子の存在なんです´`
天音的見解ですが、お付き合いいただいた方ありがとうございます。
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