カリカリカリ

書類にペンを滑らせる音がひたすら聞こえてくる。
本来こうあるべき執務室なのだが、今日に限っては違和感を感じてしまう。
いつもならシンドバッドが逃げる、誰かが引き止める、ジャーファルが確保する、この一連の流れがあるからであろう。
見張りに名前(マギ主の場合も)を付けてからその頻度が下がったとは言え、静かなことはあまりないと言えよう。

名前(マギ主の場合も)?と呼び掛けても返事がない。
疑問に思ったシンドバッドが寝息を立てている名前(マギ主の場合も)に気付いたのは数刻前の出来事だ。

これがジャーファルやらマスルールやらだったら、迷わずに執務をサボっていたことだろう。
しかし名前(マギ主の場合も)となると話は別。
ジャーファルまでとは行かずとも、いつも連れ回し振り回し疲れているのだと。
(ついでにジャーファルはあまり人前で寝ない)
シンドバッドは自分がいつも身につけている巻き布を解き、名前(マギ主の場合も)にそっとそれを掛けた。


『……ん…』

「おっと…」


起こしたか?と身じろいだ名前(マギ主の場合も)から手を遠ざけると、名前(マギ主の場合も)の眉間に皺が寄った。
そして小さな呻き声。
何の夢を見ているのだろう。この様子ではいい夢でないことは確かだ。
たかが夢、されど夢。
この世には夢占いというものが存在するぐらい、夢見は人から気にされている。
特に名前(マギ主の場合も)は夢に対して敏感なところがある。


「…夢でまで苦しむことないだろうに」


過酷な運命を背負って来た彼女には、幸せでいて欲しいと。
自分も幸せにだなんて贅沢は言わないから、と。


「お前は、幸せでいてくれ」


無防備に寝ている名前(マギ主の場合も)の前髪を掻き上げ、少し苦しそうな表情の名前(マギ主の場合も)の額にそっと口付けた。

夢の中の名前(マギ主の場合も)に届いたのだろうか。
ふっと柔らかくなった名前(マギ主の場合も)の表情。止んだ呻き声。
シンドバッドも口元に笑みを浮かべ名前(マギ主の場合も)の頭を撫でる。


「(…名前(マギ主の場合も)の幸せな夢に、俺がいればいいんだけどな)」


今、彼女は何を夢見ているのだろうか。
いつか、いつになるかわからなくとも。
愛する現実の彼女にも夢の中の彼女にも、隣にいるのは自分でいたいものだと、シンドバッドは切に願うのだった。

―まずは彼女の疲れを溜めさせないためにも執務に向かうか。

ジャーファルが見たら目を見開くだろうシンドバッドがまともに机に向かっている光景に、予想通りジャーファルは目を見開くこととなった。

たった今の彼の原動力。
それは夢から目を覚ました名前(マギ主の場合も)の隣で彼女の笑顔を見ること。







笑顔の糧

(またその笑顔が見れれば)
(俺はそれでいい)


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gari様リクエスト
奇跡夢主シン夢で守ってもらうような、庇ってくれるような、心配してくれるような甘い夢
でした!

ご希望に添えているか心配ですが…!
奇跡の番外は夢関連の話が多いんですが奇跡長編にはにはそれだけ夢に意味がある、って感じです。
夢って他人が関われないからある意味怖いものだと思います(・ω・`)

リクエストありがとうございました!

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