紫苑が帰ってきてから、王宮の1部ではとてつもない波乱を呼んでいた。
青舜の家、李家に紫苑が嫁ぐと言い出したものだから、お家騒動どころではなくなってしまったのだ。
あれだけスッパリ紫苑のことを捨てたのだ、文句など言わせないと紫苑のゴリ押し。

無事に紫苑は李家に籍を移すこととなる。

その事実を一番に喜んだのは白瑛であり、2人揃ってお祝いの料理を作ると言われ青ざめたのは言うまでもなく。
しかし、また白瑛に青舜と共に仕えられることは何よりもの喜びだった。


「やっと思いが通じ合ったのですね」
『白瑛様には大層迷惑を…』

「いいのです。2人の幸せが私の幸せにもなりますから」


あぁやはりこの人に仕えられるのは幸せだな、と紫苑は思った。
白瑛に支えることしか考えられない。

今までも、これからの信念もこの人に託そうと思える。


「婚儀はいつなのですか?」
『許可はとったのですが…やはり家の問題もあり先になりそうです』
「そうですか…婚儀のお召し物は是非私に選ばせてくださいね」
『は、はいっ!』


はにかむ白瑛に、なぜこんな素敵な人なのにお相手がいないのだろうかと疑問に思った。
とは言っても、いたらいたで紫苑も青舜も神経を尖らせたことだろう。
大好きで敬愛する主の一生の相手だ。そう簡単に選ばせはしない。
白瑛に見合った者と想い通じ合って欲しいもの。


「紫苑、ちょっと青舜を呼んできてもらえませんか?」
『青舜を?』

「えぇ。青舜にも色々言っておきたいことがありますから」


はい!と返事をして紫苑は青舜を探しに王宮を巡る。
ついでに、新しく植えた鈴蘭を見に行こうと画策していた。

前のダメになった鈴蘭から、新しく植えた鈴蘭。
まだその芽は小さいが確実に成長をしている。
その成長を見守るのはやはり紫苑の日課であり、どうしても欠かすことができない日課だった。



『…あれ?』



水をあげようと思っていたが、視界に入った小さな鈴蘭は既に水で潤っている。
こんなことをするのは1人しかいない。


「水なら、もうあげてますよ」
『青舜』


しゃがみ込んで鈴蘭を見ていた紫苑の背後に青舜が。


『白瑛様が呼んでたよ』
「姫様が?」

『言いたいことがいっぱいあるって』
「…そうですか」


そう言って青舜ははにかんだ。
紫苑も釣られてはにかんだ。

あまり待たせるのは良くないとわかっていても、この2人の時間を少しでも多くと思ってしまう。


『この子、また元気に育つかな』
「大丈夫ですよ。私も付いてます」

『…今度は…私1人じゃないもんね』
「はい」
『だよね!』


紫苑は伸びをするように立ち上がる。
チリンと鳴った鈴の音。
立ち上がった紫苑に青舜は1つやりたいことがあり、紫苑に歩み寄った。


「紫苑、ちょっと背中を向けてみてください」
『え?』


何事かと思ったものの、紫苑は素直に青舜に背中を向ける。
すると頭に青舜の手が乗る感覚。

そして悟る。
青舜は背比べをしているのだと。


「…ほら、もう私の方が高いですよ」
『あ…ホントだ…』



大きくなったら、そう言って交わした約束が1つある。


「教えてくれませんか?鈴蘭の花言葉」


ずっとずっと調べたくても調べられなかった。
紫苑の口から聞こうと決めていた。

全てを思い出し、全てが繋がった今なら聞ける気がして。


『…聞きたい?』
「はい」

『でも、もうひとつの条件はまだだよね〜"私より強くなったら"っていう』
「あっ…あれはノーカウントです!それに剣の腕は五分五分でしょう!」
『へー?』
「…まったく……」


呆れ口調で、しかし心から楽しそうに。
2人の間に流れる空気はとても穏やかなものだった。
紫苑はもう一度鈴蘭の傍らにしゃがみ込む。


『じゃあ特別に教えてあげる』


根には毒がある美しい花。
紫苑はその花言葉の意味を今伝えずしていつ伝えるのだろうかと。

止まらない頬の緩みを抑えきれず、紫苑は笑顔を浮かべた。




『鈴蘭の花言葉名はね…』




"純潔"・"純愛"

そして








『幸福の再来』










けれども想いは届かない

(その壁を超えて訪れた幸福に)
(終わりが見えないことを、切に祈ろう)

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